ナルコレプシーで欠如が見つかっているオレキシンは睡眠中枢を抑制し覚醒中枢を刺激しています。「睡眠要求指標リン酸化タンパク質(スニップス)」が「ししおどし」理論で蓄積されることで眠気を調整しています。「睡眠に迫る」という柳沢正史氏の記事が記事が医師協MATEという最近の雑誌に出ています。以前に発表された同氏の記事(https://tarzanweb.jp/post-279669)と2018年の原著論文を参考に「睡眠の科学」を説明します。
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柳沢氏の研究に基づき、睡眠の科学について以下にまとめます。
睡眠と覚醒のメカニズム:ししおどしモデル
柳沢氏は、睡眠と覚醒の切り替えを「ししおどし」に例えています。竹筒に水が溜まる様子を覚醒中の「眠気」の蓄積とし、一定量に達すると竹筒が傾き(睡眠に移行)、水がこぼれると再び元に戻る(覚醒)というモデルです。このモデルは、覚醒中に蓄積される眠気が睡眠へのスイッチとなることを示唆しています。
眠気の正体:睡眠要求指標リン酸化タンパク質(SNIPPs)
柳沢氏の研究では、特定のタンパク質のリン酸化が眠気の正体である可能性が示されています。マウスの実験で、過剰なリン酸化が過眠症状を引き起こすことが確認されました。これらのタンパク質は「睡眠要求指標リン酸化タンパク質(SNIPPs)」と名付けられ、特にシナプスで働くものが多いことが分かっています。この発見は、眠気の生理的メカニズムを解明する手がかりとなります。
オレキシンの役割
柳沢氏は、睡眠と覚醒の切り替えを制御するホルモン「オレキシン」を発見しました。オレキシンは脳内で覚醒状態を維持する役割を果たしており、その欠乏はナルコレプシー(居眠り病)などの睡眠障害と関連しています。この発見は、睡眠障害の治療法開発に大きな影響を与えました。
睡眠の個人差と遺伝子研究
人によって適切な睡眠時間が異なる理由を解明するため、柳沢氏は数万人規模の大規模調査を計画しています。この調査では、睡眠時の脳波と遺伝子型の関係を明らかにし、ショートスリーパーやロングスリーパーの遺伝的要因を探ることを目的としています。これにより、個々人に最適な睡眠指導が可能になると期待されています。
睡眠の可視化と改善:インソムノグラフの開発
柳沢氏の研究チームは、シール状の電極を貼るだけで高精度の睡眠脳波を計測できるデバイス「インソムノグラフ」を開発しました。このデバイスにより、個人が自宅で手軽に睡眠状態をモニタリングでき、睡眠の質の向上に役立てることができます。睡眠の可視化は、睡眠習慣の改善に向けた第一歩となります。
日本人の睡眠意識の変革
日本人の平均睡眠時間はOECD加盟国の中で最も短く、睡眠不足が経済損失を招いているとの指摘があります。柳沢氏は、睡眠の重要性を啓発し、睡眠習慣の改善を促すことで、日本人の睡眠意識を変えることを目指しています。適切な睡眠は、健康と生産性の向上に不可欠であり、社会全体での意識改革が求められています。
これらの研究と取り組みは、睡眠のメカニズム解明と睡眠障害の治療、さらには社会全体の睡眠意識の向上に寄与するものです。柳沢氏の研究は、睡眠科学の最前線であり、今後の展開が期待されます。
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