清澤のコメント:日本医師会雑誌2021年10月号にはかゆみ-どう診断し、どう治療するかの特集が組まれています。新しい治療薬の話も出ていますから①その中からアトピー性皮膚炎の部分を抄出してみましょう。また以前の記事も再録します。②アトピー性皮膚炎の眼症状(自分が関与した過去の論文から)、③アトピー性皮膚炎での眼科と皮膚科の協力について。
① アトピー性皮膚炎のマネジメント(中原剛士 日医雑誌150巻8号p1363-1364)
1,病態と診断:増悪と緩解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、その病態は、皮膚バリア機能異常、炎症、掻痒の3つの要素が絡み合って形成される。診断基準は、「①掻痒、②特徴的皮疹と分布、③慢性・反復性経過の三基本項目を満たすものを、症状の軽重を問わずアトピー性皮膚炎と診断する」確定診断後、これまでの経過を含めた包括的な重症度評価を行い、十分な説明の上で治療を開始する。
治療法は、その病態に基づいて、薬物療法、皮膚のスキンケア、悪化因子検索と対策の3点を基本とする。
2,治療
(1)抗炎症外用療法:速やかに、かつ確実に鎮静させることが重要。視診と触診、自覚症状(掻痒)を参考に炎症の部位を適切に把握し、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏を組み合わせて使用することが基本。緩解導入後は緩解維持療法へ移行。
ステロイド外用薬は5ランクに分けられる。小児でも皮疹の重症度に応じたステロイドを使用する。Finger tip unit(約0.5g)が、成人の手で2枚分が指導ツール。タクロリムスやデルゴシチニブは皮膚菲薄化や毛細血管拡張を起こさない。
プロアクティブ療法:保湿剤によるスキンケアと抗炎症薬を週に2回程度定期的に使用。炎症に再燃がなければ、炎症再燃時に使うリアクティブ療法の方が理解を得やすい、
(2)保湿スキンケア:皮膚の生理学的異常(乾燥・バリア機能低下)に対する保湿外用薬の使用は皮膚炎の改善・再燃予防やかゆみ抑制につながる。ステロイド外用薬の原料も期待できる。保湿外用薬にはヘパリン類似物質含有薬剤製剤、尿素製剤、白色ワセリン、プロペト。
(3)全身療法:第2世代抗ヒスタミン薬は日所療法で可。ヒトIL-4/13受容体モノクロナル抗体(ヂュビルマブ)と経口JAK阻害薬バリシチニブも使用可。ヒスタミン非依存性経路が重要で上記薬剤は高い効果を示す。
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アトピー性皮膚炎なら 失明につながる目の病気に要注意(取材記事)
日刊ゲンダイ 2017年11月02日
10代、20代での発症も(左は清澤眼科医院の清澤源弘院長)/(提供写真)
日本では症状の軽い人を含めて約1000万人のアトピー性皮膚炎の患者がいるといわれている。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、かゆみが出て湿疹が出来るこの病気はそれだけでも厄介なのに、失明につながる目の病気にかかりやすいという。その代表的なものが「白内障」と「網膜剥離」などだ。通常の「白内障」「網膜剥離」と何が違うのか。清澤眼科医院(東京・江東区)の清澤源弘院長に聞いた。
「私は大学の皮膚科に入院して治療を受けたアトピー性皮膚炎の患者さんたちの目の症状を調べたことがあります。大まかな傾向は変わっていないのでお話ししましょう。当時はアレルギー性結膜炎が最も多く34%に見られ、次いで多かったのが白内障で25%、角膜表面の細かい傷が12%、網膜剥離も11%に見つかりました。角膜が薄くなり、中心部が突出して視力の低下や乱視をもたらす円錐角膜は1%のみでした」
白内障はカメラのレンズにあたる目の水晶体が白く濁り、視力が低下する病気。光をまぶしく感じたり、物が二重に見えたりする。やがて視力が低下し失明することもある。多くは加齢が原因で60代以上の発症が多い。
「ところが、アトピー性皮膚炎に伴う白内障の年齢分布は14~43歳に広がっていて、その平均年齢は23歳。男女差はなく、男性では31%、女性では18%がすでに白内障を持っていました。アトピー性皮膚炎患者の当時の白内障有病率は国内外の文献でも10~37%。そのうち両眼に水晶体の混濁があるものが75%。アトピー性白内障は両眼に出やすい特徴があります」
■10代、20代での発症も
またアトピー性白内障は後嚢下白内障が多いことが知られている。
「ひと口に白内障といっても水晶体のどこが濁るかにより種類が分かれます。水晶体の中央の『核』から濁りが出てくる核白内障、核の周りの皮質から濁りが生じる皮質白内障、それに水晶体の後ろの嚢部分が濁る後嚢下白内障です。加齢による白内障は核や皮質が濁るのが一般的で、強度近視では核が濁ります。それとは違って、アトピー性白内障は後嚢にも多く見られます」
アトピー性白内障手術では術後の水晶体嚢収縮も強いため、場合によっては正しい場所に入れた眼内レンズが、その後ずれることがある。
網膜剥離はどうか?
「アトピー性皮膚炎の患者のなんと11%が持っていました。男性では16%、女性では5%であり、年齢分布は14~30歳でその平均は21歳でした。これは国内の複数の文献でも0~8%。この比率は、網膜剥離の自覚症状がない患者さんを対象としたものですから、一般市民における網膜剥離の日本人の発症率『1年間で1万人に1人』という比率と比べれば、大変に高い頻度です」
このとき清澤院長が診た症例は両眼とも網膜剥離が目立ったという。
「うち77%は白内障も患っていました。眼底のよく見えない白内障患者では、白内障手術を行う際に、網膜剥離が眼底に隠れていないことをよく見極めなければなりません」
アトピー性白内障手術では術後の水晶体嚢収縮も強いため、場合によっては正しい場所に入れた眼内レンズが、その後ずれることがある。
それにしても、なぜ、アトピー性皮膚炎になると目の病気のリスクが高まるのか?
「実は顔の皮膚も、目の角膜外層・水晶体・網膜も、発生の時期には外胚葉から分化します。つまり、同じ組織から発生するわけで、皮膚も目も起源は同じなため、アトピー性皮膚炎の原因でもある炎症の悪影響を共通して受けやすいということが一つの理由として考えられます。また、アトピー性皮膚炎の患者さんは顔面がかゆいので眼球の周りを叩いたり、かいたりする。そのため外傷性剥離が多いのではないか、との説もあります」
アレルギー性結膜炎の人の中には激しいかゆみに対処するためにステロイド点眼薬を使う人も少なくない。これが緑内障を招くことがある。
「緑内障は視神経に障害が起こり、視野が狭くなり、放っておくと失明することもある病気です。眼圧が高い人がなりやすいといわれます。人によってはステロイド点眼薬を2週間くらい使うと眼圧が急上昇し、視神経に損傷を与えることがわかっています。ステロイド点眼薬を使う人は定期的に眼圧を測り、注意しなければなりません」
あなたは大丈夫?
――引用終了――
参考文献:J Dermatol. 1999 Oct;26(10):658-65. Cataract and retinal detachment in patients with severeatopicdermatitis who were withdrawn from the use of topical corticosteroid.TaniguchiH, Ohki O,YokozekiH, Katayama I, Tanaka A,KiyosawaM, …
③ 別の記事です:
https://www.kiyosawa.or.jp/conjunctiva/48943.html/
2019年1月28日
10424:眼科と皮膚科が連携したアトピー性皮膚炎治療を目指して 田中暁生先生を聞きました
後藤(東京医大)全体的挨拶:今年の花粉症は長期化するが昨年ほどではないとの予測もある。アトピー関連の医療がドラスチックに変化している。本日はその話を聞く。
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第1部:眼科と皮膚科が連携したアトピー性皮膚炎治療を目指して 田中暁生 (広島大皮膚科)
新しい抗体製剤が出ている。小学校の友人にアトピーの子がいた。多くのアトピーは年齢とともに軽くなる。20年で、病態理解が変わり、それに基づきまず寛解状態に持ち込む。2006年には①原因を探す、②スキンケア,③薬剤治療であったが、2012年に新しいガイドラインが出た。1)治療のゴールを説明し、2)患者教育を行う ①寛解導入療法(ステロイド、タクロリムス)、2)寛解維持療法、3)エクロスポリン(?)加など。
♯プロアクティブ療法:ステロイドやタリムスを使うが正常な皮膚にはなっておらず、炎症が反復している。プロアクティブ療法ではよくなってもステロイドを塗り続ける。アトピー性皮膚炎ではまず炎症制御が大切。重症=難治ではない。表層浸潤と炎症動態をコントロールし、軽快から寛解に持ち込み、体質改善を図る
TARC(タルクというケモカイン)が高い(450以上)と湿疹が出やすい。
薬をきちんと塗ってないなら、顔は中程度の、体には超強度のステロイドを処方する。
♯赤ちゃんでは塗って見せる:出す薬の強さではなく、実際に塗っているかどうかが要点。全体を覆って幕を作るように、広く厚く塗る。Finger tip unitごとに掌に広げて背中に(幅30センチ上下15センチ位に)移す。
♯一年かけてタルク値200以下に持ち込む。
ステップ1、かゆみと炎症を抑える
ステップ2、ぶり返させない
ステップ3、スキンケア
♯アトピーの合併症とステロイドの副作用がある
合併症は眼瞼皮膚炎、角結膜炎、円錐角膜、白内障、網膜剥離。副作用には白内障と緑内障がある。
♯治療の実際:全体として湿疹をなくす。特に逃避が重要。眼瞼では周りまで塗ろう(タクロリムスも加えて)
頭と体にステロイド軟膏、体はタクロリムス軟膏
小児では小児科から成人での皮膚科への連絡がつながっていないことも問題である。
注:抗体療法について
アトピー性皮膚炎初の抗体医薬が薬価収載【薬価収載】|Web医事新報|日本医事新報社
「デュピクセント皮下注」(一般名:デュピルマブ〈遺伝子組換え〉)は、アトピー性皮膚炎では国内初の抗体医薬。アトピー性皮膚炎の病態で重要な役割を担うインターロイキン(IL)-4とIL-13のシグナル伝達を阻害する。通常、成人には初回に600mgを皮下投与し、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与する。
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