全身病と眼

[No.463] ウクライナ和平協議参加のロシア人富豪が薬物症状で数時間視力喪失:ノビチョクか??:

ウクライナ和平協議参加のロシア人富豪が薬物症状で数時間視力喪失:

複数の欧米メディアは3月28日、ロシアとウクライナの非公式な和平協議に参加したウクライナ側の交渉担当者ら3人に、毒物の中毒症状が確認されたと報じた。和平協議は3月3日にウクライナで行われ、同日夜、協議に参加したウクライナ国会議員ら2人が目と皮膚の炎症や目を突き刺すような痛みを訴えた。同じく協議に出席した英サッカー・プレミアリーグの「チェルシー」オーナーで、英国などの制裁対象となっているロシア人富豪ロマン・アブラモビッチ氏にも症状が出て、数時間視力を失ったという(読売新聞オンライン)。

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ロシアとの休戦協議に参加していたロシアの資産家が薬物中毒で一時的に視力を失ったという記事が出ていました。視力が低下する薬物とは一体何でしょうか?私が診察した地下鉄サリン事件の被害者も強い縮瞳作用の為に、暗く感ずるという訴えが強かったことを思い出しました。

富山大学の奥寺敬教授(救急・災害医学)によれば、ノビチョクは有機リン系の神経剤です。サリンもVXも同じ有機リン系ですが、ノビチョクは安全に持ち運びできる「第4世代」の化学兵器です。

 第1次世界大戦では化学兵器の第1世代としてマスタード、ホスゲン、塩素が使われました。マスタードは農薬、ホスゲンは合成樹脂、塩素は消毒剤の製造過程で出てきた副産物でした。

 第2世代は有機リン系のサリン。1938年にドイツで開発されました。漏れ出た時の被害が多すぎたため実戦では使われませんでした。

 第3世代は1952年にイギリスで合成されたVXなどの神経ガス。マレーシアで2017年、朝鮮労働党委員長の兄、金正男氏暗殺で使われました。

 第4世代の開発目標が「バイナリー兵器」。神経剤となる前段階の2種類の物質を隔離して持ち運び、使う直前に混ぜて使うものです。ノビチョクはこの第4世代とみられています。

 ノビチョクは、20183月、英国で起きたロシアの元スパイ暗殺未遂事件で使われ、英国政府がそれと認定しました。ノビチョクの被害者は有機リン系の毒物なので、強いけいれんと意識障害が特徴です。脳疾患の意識障害だと瞳孔は散大しますが、有機リン系では瞳孔が小さくなります。激しいけいれんも有機リン系の特徴です。有機リン系の解毒剤としては、硫酸アトロピンとPAMがあります。奥寺敬教授は、化学兵器の対策について見たこともない突然のけいれん、②2人以上の患者、瞳孔の縮小という3点に注目するように呼びかけています。

2020820日、ロシア反体制派の政治活動家アレクセイ・ナワリヌイが、モスクワに向かう国内線機内で意識不明の重体となりました。ドイツ政府は血液サンプルの検査からノビチョク系の毒物の使用を断定できる証拠が得られたと発表しました。

ウィキペディア(Wikipedia)』によれば、ノビチョク(英語: Novichok, 意味は「新参者」)は、ソビエト連邦とロシア連邦が1971年から1993年に開発した神経剤の一種です。

これら薬剤は、ガスや蒸気の代わりに超微細粒子として拡散する独特な性質を持ちました。バイナリー兵器群で最も強力な化合物のノビチョク5とノビチョク7VXガスと比べておよそ5倍から8倍強力です。「ノビチョク」は、2つの薬剤に分かれた形態です。A-234剤は、砲弾、爆弾、ミサイル、噴霧装置を含む様々な装置を介し、液体、エアロゾルまたはガスとして散布することができます。

化学的に、幅広い可能性のある構造が報告されていて、全てが古典的な有機リン基(P=OP=SP=Seに置き換えられることもある)を特徴とします。通常フッ素化されたホスホロアミド酸またはホスホン酸が最も一般的。しかし、一般的な置換基はホスゲンオキシムまたはその類似体です。同時に掻痒剤であり、ノビチョク剤による被害を増強します。これらグループの構造は、ノビチョク剤の特徴である酵素の急速な変性をおそらく説明でき、酵素アセチルコリンエステラーゼの活性部位に共有結合し得る架橋剤モチーフをいくつか持っている。

神経剤としてノビチョクはすべてが、有機リン酸アセチルコリンエステラーゼ阻害剤に属する。これら化合物は酵素アセチルコリンエステラーゼを阻害し、神経伝達物質であるアセチルコリンの正常な分解を妨げる。アセチルコリン濃度は、神経筋接合部で増加し、全ての筋肉の不随意収縮を引き起こす。これは呼吸と心拍停止に繋がり、最終的には心不全または肺水腫による窒息により、死亡する。

アトロピンなどの速効型末梢性抗コリン作用薬の使用は、他のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤による中毒治療のようにアセチルコリンによる中毒を阻害するために働く受容体をブロックする可能性がある。しかし、神経剤中毒の有効投与量は、患者の心拍数変化と気管支分泌物の肥厚など重篤な副作用が起きる用量に近いため、アトロピンを安全に投与することは困難である。神経剤中毒の治療において、アトロピンは、有機リン系神経剤のリン酸化によって不活性化されたアセチルコリンエステラーゼを再活性化させる、プラリドキシム(PAM)のようなハゲドーンオキシムと共に投与される。

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