全身病と眼

[No.730] IgG4 関連眼疾患の診断基準

清澤のコメント:本日ネット記事で「治らないまぶたの腫れに潜む病気 IgG4関連涙腺・唾液腺炎とは 都立駒込病院・神澤輝実院長に聞く」が掲載されている。この疾患は眼科医には外眼部に炎症を持つことが良く知られるが、膵臓などの多臓器病変も多いことから、この疾患に対する内科医と眼科医の見解が全く同じとは限らない。そこで、2015年のIgG4 関連眼疾患の診断基準(英文)の邦文訳を抄出してた。眼窩内の炎症ないし腫瘤性病変では、眼腫瘍専門医に渡す前に血清IgG4 値が 900 mg/dl 以上の高値であるかどうかを早期に調べてみるのが良いかもしれない。

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IgG4 関連眼疾患の診断基準:平成 28 年 5 月 10 日 Jpn J Ophthalmol 59:1-7,2015 の論文の和訳,二次掲載。 後藤 浩, 高比良雅之, 安積 淳;日本 IgG4 関連眼疾患研究グループから抄出:

はじめに
IgG4 関連疾患は,IgG4 陽性形質細胞の浸潤によりさまざまな臓器に腫大や腫瘤の形成を来す原因不明の疾患である.IgG4 関連疾患の包括診断基準は2012 年に本邦から報告された.IgG4 関連疾患は両側対称性の涙腺および唾液腺の腫大を特徴する,いわゆるMikulicz 病として知られてきた病態と同一であることも判明し,眼科領域でも次第に注目されていった.しかし,しばらくの間,さまざまな病名が無秩序に使用されていた.そこで日本眼腫瘍学会では,IgG4 関連疾患にみられる眼病変の病名をIgG4 関連眼疾患(IgG4-related ophthalmic disease)に統一し, IgG4 関連眼疾患の診断基準の確立を図ることになった.
Ⅱ IgG4 関連疾患の歴史
血清中の免疫グロブロリンの一つである IgGはIgG1〜IgG4の4つのサブクラスから構成される.IgG4自体は全IgG量の4%を占めるに過ぎない.2001 年,Hamanoらは自己免疫性膵炎患者の血清IgG4が異常高値を示すことを初めて報告した.膵炎以外にも涙腺,耳下腺,肝胆道系,後腹膜をはじめとするさまざまな臓器に腫瘤や腫大,肥厚性病変を示す症例の血清IgG4が高値であることが明らかにされていった.これらの腫大や肥厚を来した病変局所には病理組織学的にIgG4 陽性形質細胞の浸潤や線維化がみられることが判明していった.
眼科領域では,かつて Mikulicz 病と称されていた両側涙腺および唾液腺が対称性の腫大を示す症例の血清IgG4が高値であることが明らかにされた.眼病変は涙腺にとどまらず眼窩内や外眼筋,眼窩内神経(三叉神経の分枝),眼瞼などにもみられることが明らかにされていった.特に眼窩下神経と眼窩上神経の腫大は高頻度にみられる所見である.

Mikulicz 病は,1888 年に Mikulicz による両側涙腺および唾液腺の腫大を来した症例報告に端を発し,その約 50 年後に Sjögren 症候群が報告されたが,当時は両疾患の病理組織像はほぼ同一とみなされていた.しかし,両者は組織学的にも涙液分泌障害の点でも明らかに異なる.
Ⅲ 眼病変に対する病名の統一
IgG4 に関連した眼病変は,しばらくの間,さまざまな病名が用いられてきた.2012 年に本邦で IgG4 関連疾患の包括診断基準が報告された後,最終的に IgG4 関連眼疾患(IgG4-related ophthalmic disease)という病名に統一された.
Ⅳ IgG4 関連眼疾患の診断基準
表 1 IgG4 関連眼疾患の診断基準

1) 画像所見で涙腺腫大,三叉神経腫大,外眼筋腫大のほか,さまざまな眼組織に腫瘤,腫大,肥厚性病変がみられる
2) 病理組織学的に著明なリンパ球と形質細胞の浸潤がみられ,時に線維化がみられる.IgG4 陽性の形質細胞がみられ,IgG4(+)/IgG(+)細胞比が 40% 以上,または IgG4 陽性細胞数が強拡大視野(×400)内に 50 個以上,を満たすものとする.しばしば胚中心がみられる
3) 血清学的に高 IgG4 血症を認める(>135 mg/dl)

確定診断群(definite):1)+2)+3)
準確診群(probable) :1)+2)
疑診群(possible) :1)+3)
鑑別疾患:Sjögren 症候群,リンパ腫,サルコイドーシス,多発血管炎性肉芽腫症,甲状腺眼症,特発性眼窩炎症,細菌・真菌感染による涙腺炎や眼窩蜂巣炎.
注意:Mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫は IgG4 陽性細胞を多く含むことがあり,慎重な鑑別が必要.

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全身のさまざまな臓器を含む IgG4関連疾患の包括診断基準は 2012 年に確立されたが, 眼病変を含む多くの臓器における診断基準はまだ存在してはいなかった.そこで眼病変における診断基準を作成していった.
この新たに提唱された眼病変の診断基準(表 1)は,出来るだけ眼病変の特徴を盛り込むようにした.また,診断に必要な条件の充足度に応じ,確定診断群,準確診群,疑診群の 3 つに分類設定した.
この新たに提唱された眼病変の診断基準と包括診断基準の相違点であるが,前者では眼部における病変の多様性を反映すべく,涙腺,三叉神経(眼窩上神経と眼窩下神経),外眼筋,およびさまざまな眼組織に腫瘤,腫大,肥厚性病変がみられる可能性について記載している.また,眼付属器病変の場合,病理組織学的に線維化は必ずしも強くはない,あるいは存在しないこともあること,しばしば濾胞形成がみられることに触れ,さらに IgG4陽性形質細胞が IgG 陽性細胞の中に占める割合は 40%以上,もしくは強拡大視野(×400)で 50 個以上みられることを条件とした.また,鑑別疾患として Sjögren 症候群のほか,リンパ腫やサルコイドーシスなど,眼付属器に腫瘤や腫大を来す可能性のある疾患が記載されている.特に眼窩にみられるリンパ増殖性疾患の中でも最も頻度の高い mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫との鑑別について注意を喚起している.ただし,眼付属器における IgG4 関連眼疾患と MALT リンパ腫についてはこれらの合併例の報告もあり,今後も議論を要する課題である.
Ⅴ IgG4 関連眼疾患の頻度,ほか
IgG4 関連眼疾患自体が比較的新しい疾患概念であることから,本症における有病率などについては不明である.一方,本邦の多施設共同研究によれば,眼窩リンパ増殖性疾患 1,014 例のうち,最も多くを占めているのはMALT リンパ腫(39.8%)で,その次は IgG4 関連眼疾患(21.6%)であり,この 2 疾患だけで眼窩リンパ増殖性疾患の 60% 以上を占めることになる.
かつて眼窩炎性偽腫瘍,特発性眼窩炎症といった臨床診断のもと,副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド薬)による治療が行われてきた症例の中には,少なからず IgG4 関連眼疾患が含まれていると考えられる.さらに眼窩筋炎,眼窩先端部症候群,特発性視神経症,あるいは後部強膜炎の診断のもと,ステロイド薬などで治療されてきた症例の中にも IgG4 関連眼疾患が含まれている可能性も否定できない.
Ⅵ IgG4 関連眼疾患と他臓器病変との関係
IgG4 関連疾患は全身のさまざまな臓器に発生する可能性があるが,これらの病変は必ずしも同時に発症するとは限らない.むしろ,眼病変が露呈し,診断が確定した時点では他臓器に異常はないことも多い.一方,血清IgG4 値が 900 mg/dl 以上の高値を示した場合には,唾液腺などの眼以外の病変を併発する可能性が高いとする報告がある.
Ⅶ 今後の展望
今後はこの診断基準の妥当性について改めて評価が必要であろう.本症の眼症状は多様であり,時に重篤な視機能障害をもたらす可能性があることにも留意する必要がある.
IgG4 関連疾患は時間的・空間的多発性があることと,ステロイド薬の全身投与に比較的よく反応するという特徴がある.しかし,ステロイド薬の漸減や中止とともに再発を繰り返し,病態が慢性化していくことも珍しくない.今後は臨床症状や視機能への影響を考慮した重症度分類や,ステロイド薬の全身投与を中心とした治療指針の確立が求められる.同時に発症病理に関わる基礎的研究を通じて,IgG4 関連疾患の原因も明らかにされていく
ことが期待される.
本研究は厚生労働省科学研究補助金 難治性疾患克服研究事業 IgG4 関連疾患に関する調査研究に基づいて行われた.

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