清澤のコメント:第24回 日本眼科記者懇談会の内容を日本の眼科2023.6から抜粋して採録しています。3歳児で屈折検査ができるスポットビジョンスクリーナーは当医院でも今年から導入しました。子供の目の日制定は先に紹介しました。
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日本眼科医会と日本眼科学会・日本眼科広報委員会では, 5 月 18 日に「第 24 回日本眼科記者懇談会」を開催した。
講演 1 日本眼科学会・日本眼科医会の「こ どもの目を守る医療活動」:「こども の目の日」制定 白根雅子先生(日本眼科医会 会長)
3 歳児健診で「弱視」を見逃さない! 屈折検査 機器の導入を推進 :乳幼児期では,「弱視」への対策が重要。弱視を防ぐためには 3 歳児健診で弱視を見逃さないよう,屈折検査を行うことが非常に重要。自治体が屈折検査機器を導入する際の補助を実現した。これにより 3 歳児健診への屈折検査機器の導入率は,2021 年の 28%から 2022 年度は 70%以上に向上している。
学童期は「近視」,青年期は「コンタクトレンズ」 の啓発を :近年,近視の児童が増加している。強い近視は緑内障,網膜剥離など重篤な眼疾患につながることが知られている。 学童期の児童に対し,近視の進行を抑制するための啓発活動を展開している。
青年期にさしかかる中・高校生期では,コンタクトレンズの不適切な使用による眼障害が大きな問題。そのため,予防啓発の動画を作成した。
日本眼科医会など眼科関連諸団体 が組織する日本眼科啓発会議では,「はぐくもう!6歳で視力1.0」をスロー ガンに,6 月 10 日を「こどもの目の日」に制定した。 3歳児健診で弱視を早期発見して治療し,6 歳までにすべての子どもたちが視力1.0を獲得できるよう, そして 6 歳からも目を大切にして視力1.0を維持できるよう、啓発活動を推進していきたい。
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講演 2 「こども家庭庁」の創設とこどもの 目の健康について 自見はなこ先生(参議院議員・小児科専門医)
成育基本法の成立を機に:2018 年 12 月に成育基本法が成立,それに基づい て 2021 年2月に成育医療等基本方針が閣議決定された。弱視見逃し防止のための3歳児健診への屈折検査機器導入への補助も,その方針に基づくものである。
こども家庭庁を創設:児童生徒の自殺,虐待,不登校,いじめ,低いこどもの精神的幸福度,ひとり親母子世帯家庭の相対的貧困率など命に関わる課題は深刻な状況。「こどもまんなか社会」の実現に向けて,常にこどもの視点に立って,こども政策に強力かつ専一に取り組む独立した行政組織として,「こども家庭庁」が創設された。こども家庭庁は,大きくは企画立案・総合調整部門,成育部門,支援部門からなり,強い司令塔機能を有し,各省庁からこどもの福祉,保健等を目的とした法律・事務を移管・共管・関与し,新規の政策課題に取り組む体制となっている。
こども基本法の概要 :「こども基本法」の目的は,「日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり,次代の社会を担う全てのこどもが,生涯にわたる人格形成の基礎を築き,自立し た個人としてひとしく健やかに成長することができ,こどもの心身の状況,置かれている環境等にかかわらず,その権利の擁護が図られ,将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指して,こども施策を総合的に推進する。」こと。
こどもの生涯にわたる幸福(Well-being)を目指 し,外あそびの推奨を検討へ:海外ではこどもの外あそびを推奨,または義務づけている事例もある。こども 家庭庁においても検討が進む予定。乳幼児期のこどもの育ちは,心身の発達を図るだけでなく,生涯にわたる人格形成の基礎となる。身 体,心,社会(環境)を一体としてとらえ,「こどもまんなか」視点で,こどもの育ちを保護していくことが重要。
講演 3 小児の眼の健康をまもるために 佐藤 美保先生(日本弱視斜視学会 理事長)
こどもの視力は 6 歳までに発達する 生まれた時の眼球は大人の 3 分の 2 程度の大きさで,黄斑(視力の中心)も未発達である。ものを見るための脳も未発達であるため,生後6か月~1年での視力は 0.1 程度と考えられている。その後は急速に発達し,6 歳までには 1.0 程度の視力が獲得される。この視力が発達する「視覚感受性期間」が重要で,不適切な環境で成長すると視力が正常に発達しないことになる。5歳までは特に重要な時期である。屈折異常,不同視,斜視などが原因となる弱視は,早期に治療を始めればよい結果が得られるが,時期を逃すと視力障害が将来にわたって続くことになる。
弱視の早期発見のために,3 歳児健診で「屈折検査」を 弱視の治療にとって必要なことは,①弱視,弱視 予備軍の早期発見,② 3 歳児健診は視力検査だけでなく屈折検査も行う,③保護者に 3 歳児健診の重要性を理解してもらうことである。
3 歳児健診で行われている家庭での視力検査には 限界があり,また,幼児は視力が 0.3 程度あれば生活に不自由がないことから,視力検査だけでは弱視を見逃してしまうことがある。弱視発症のリスクが高い児を効率的に発見するためには,客観的に評価できる屈折検査を視力検査と組み合わせることが非常に重要。
令和 4 年度より,厚生労働省の母子保健事業の一 つとして,3 歳児健診で用いる屈折検査機器を自治体が購入する際に補助されるようになり,屈折検査機器の導入が進んでいる。
デジタル化に対応した指導の必要性: GIGA スクール構想などにより,デジタル機器の 使用頻度が高まる中,近視の進行,調節異常,斜視 などの眼位の異常,ドライアイなどが懸念される。近視の程度が強くなると,将来的に緑内障,網膜剥離,黄斑変性など失明につながる眼疾患になりやすい。近視を予防するためには,1 日 2 時間の屋外活動,長時間の細かい作業を避けることが重要。
講演 4 ICT 教育と目の健康啓発活動 丸山 耕一先生(日本眼科医会 理事)
長時間の動画視聴,ネットゲームなどで子どもの視力が低下:1980 年代にゲーム端末が登場し,子どもたちの 遊び場が屋外から屋内へと変化した。その後も,スマートフォンやタブレット端末の普及,家庭への高速ネット回線の拡充により,長時間の動画視聴, ネットゲーム,SNS などが常態化,裸眼視力1.0 未満の学童が増え続けている。さらに,GIGA スクー ル構想による1人1台端末の導入の他,コロナ禍でインターネット利用時間が増え,屋外活動はますます減少した。この傾向は今後も続くものと考えられ る。
啓発マンガ「ギガっこ デジたん!」,啓発動画 「進む近視をなんとかしよう大作戦」: 本会では,児童生徒がデジタル端末を使用する際の留意点を5つのエピソードにまとめた目の健康啓 発マンガ「ギガっこ デジたん!」を作成し,教材として活用することを学校現場などに呼び掛けている。
また,近視の解説,タブレットを近くで見続けることの危険性,近視が将来に及ぼすリスクなどを説明した啓発動画「進む近視をなんとかしよう大作戦」は,小学校での学習活動に取り入れられている事例もある。
さらに,電子書籍「ギガっこ デジたん!大百科」も作成。各コンテンツの活用促進のため,子どもたちに「近視マンカード」を配付して周知を行っている。
「こどもの目の日」制定で期待すること:1人1台の端末利活用のなかに,「目の健康を守る」習慣を溶け込ませる積極的関与と介入,近視等の将来的な疾患低減,目の健康リテラシーを育みながら児童生徒の自律性を高めることが今後ますます重要となってくる。「こどもの目の日」制定により, この機運が高まっていくことを期待している。
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