小児の眼科疾患

[No.3452] 近視研究アップデート〜乳幼児から大人まで〜内容紹介:(第128回日本眼科学会シンポジウム11より)

清澤のコメント:近視進行予防は最近注目を集めている眼科診療のテーマです。特に新しい話でもないと感じますが、現役の眼科医としてはマスターしているべき事柄でしょう。屋外活動時間確保、オルソケラトロジー、低濃度アトロピン点眼、「スポットビジョンスクリーナー(SVS)」利用の辺りは私も診療に取り入れています。

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近視研究アップデート〜乳幼児から大人まで〜

(第128回日本眼科学会シンポジウム11より)

近視は、いまや日本だけでなく世界的な「視覚の公衆衛生課題」となりつつあります。東京国際フォーラムで開催された日本眼科学会シンポジウム11では、「近視研究アップデート」と題して、乳幼児期から成人までの近視に関する最新知見が紹介されました。各演者の講演を以下にご紹介します。


■ S11-1

三宅 正裕(京都大学 眼科学教室 准教授)

演題:近視の遺伝と疫学(Genetics and epidemiology of myopia)

三宅先生は、強度近視により引き起こされる「脈絡網膜萎縮(CRA)」が、先進国での失明原因の一つとなっていることを指摘しました。特に注目されたのは、「極度近視(眼軸長28mm以上)」と通常の学童期近視との関係です。

滋賀県で行われた「長浜スタディ」のデータ解析により、若年層では近視・強度近視の頻度が高いものの、極近視の割合は年齢層でほとんど変わらないという事実が明らかにされました。さらに、軸長に関連する遺伝的リスクスコアは、眼軸が28mmを超えるとむしろ低下することが分かり、極度近視は通常の近視とは異なる機序で発症している可能性が示唆されました。この仮説を検証するために、274人の強度近視患者に対して全ゲノム解析を行い、極度近視の原因に迫る新たな知見が得られつつあるとのことです。(清澤注:恐らく先週出たこの論文でしょう。)

近視性黄斑新生に新たな感受性遺伝子座が特定され、加齢性黄斑変性との共通遺伝的感受性が明らかになった


■ S11-2

仁科 幸子(国立成育医療研究センター 眼科部長)

演題:乳幼児の近視管理(Myopia management in infants)

乳幼児の眼は、機能的にも形態的にも発達段階にあり、視力の予後は早期発見・早期対応に大きく左右されます。仁科先生は、乳幼児期の近視の見逃しが、弱視や斜視のリスクにつながることを指摘し、最近普及が進む「スポットビジョンスクリーナー(SVS)」の意義について説明しました。

特に3歳児健診での導入が進みつつある中で、2歳未満の検査については偽陽性も多く、慎重な解釈が必要ですが、強度近視などの発見につながる可能性もあり、有用性は高いとされています。

将来的には遺伝子解析を含めた包括的な早期診断と管理が、乳児近視の発症メカニズム解明にも貢献することが期待されています。


■ S11-3

鳥居 秀成(慶應義塾大学医学部眼科学教室 助教)

演題:近視臨床研究最前線(Latest topics in clinical research on myopia)

鳥居先生は、近視進行抑制のために用いられるオルソケラトロジー、低濃度アトロピン点眼、多焦点コンタクトレンズなどのエビデンスを紹介しました。

さらに新しい知見として、紫色の短波長光(360〜400nm)が近視進行を抑える可能性があることが研究で示されており、そのメカニズムには非視覚型光受容体Opn5が関与していることがわかっています。

この効果は、紫外線透過眼鏡を用いた2年間の臨床試験や、光を発する眼鏡フレームを用いた安全性試験でも確認されており、新しい予防アプローチとして期待されています。


■ S11-4

李 惇馥(東京科学大学)

演題:レッドライト治療による近視進行抑制(Effect of repeated low-level red-light therapy for myopia control)

李先生は、中国を中心に世界30か国で急速に広がりつつある**低照度赤色光治療(RLRL)**について紹介しました。RLRLはもともと弱視治療に使われていた光を用いており、最近では近視進行抑制にも非常に効果的であると報告されています。

2024年3月から日本でも自由診療として実施可能となり、すでに15万人以上の子どもが海外でこの治療を受けているとのこと。治療初期に軽微な網膜障害の報告もあるため、使用には慎重な経過観察が求められます。


■ S11-5

生野 恭司(いくの眼科 院長)

演題:近視性中心窩分離症に対する外科的治療(Surgical treatment for myopic foveoschisis)

病的近視により生じる網膜の病変のひとつが「中心窩分離症(MF)」です。視力低下や変視を引き起こすこの疾患に対して、生野先生は硝子体手術(PPV)と内境界膜(ILM)の剥離を中心とする外科的治療の実際を紹介しました。

特に「中心窩剥離型」においては手術による視力改善の可能性が高く、術後の経過は良好な例が多いとのこと。ただし、手術には網膜裂孔や剥離のリスクもあるため、慎重な適応判断が重要とされています。


◆ まとめ

近視の研究は、いまや遺伝子から光刺激、手術療法にまで広がりを見せています。今回のシンポジウムでは、近視を単なる屈折異常としてではなく、年齢に応じた多面的な視点で捉え、予防と個別管理を進めることの重要性が強調されました。

今後の診療においても、こうした研究成果が日常診療に活かされていくことが期待されます。

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