小児の眼科疾患

[No.3512] 子どもの心の健康、アメリカで何が起きているのか?(JAMA記事紹介)

アメリカの子ども 精神疾患 子どもの心の健康、アメリカで何が起きているのか? ~公的保険と精神疾患診断率の上昇~

清澤のコメント:日本の眼科診療でも心理的な問題や精神的な疾患が有って視力障害を訴える子供が散見されますが、米国の小児精神疾患の現状はどうなのでしょうか?それに答える記事がJAMA最新号に出ています。

メンタルヘルスの診断が急増

アメリカでは、2010年から2019年の間に、公的医療保険(メディケイドやCHIP)に加入する子どもたちの間で、精神疾患の診断や治療を受ける割合が大幅に増加しました。特に自閉症の診断率はこの9年間で5倍以上になったという報告が注目されています。

この背景には、

  • 実際に子どもの心の病気が増加している可能性
  • スクリーニング(心の健康チェック)の普及
  • 保険制度の改善により受診がしやすくなったこと
    などが挙げられます。

保険制度が後押しした受診率の上昇

この時期には、**オバマ政権による医療保険制度改革(ACA**の実施があり、低所得層の家庭でも子どもが医療保険に入りやすくなりました。また、メディケイドの小児向け制度「EPSDT」では、子どもの発達段階に応じた定期的な心身のチェックが推奨されており、診断数の増加に寄与したと考えられます。

誰がより診断されているのか?

この研究では、白人や「多人種」の子どもたちが、他の人種・民族の子どもよりもメンタルヘルスの診断を受けやすい傾向があるとされました。

ここでの「多人種」とは、複数の人種的ルーツを持つ子ども(例:白人とアジア系の親を持つなど)を指します。

一方、黒人やヒスパニックの子どもも診断率が上昇し、人種間の診断格差は少しずつ縮まりつつあると見られています。

なぜ心の病気が増えたのか?

興味深いのは、いじめや虐待、貧困などの従来のリスク要因が減少傾向にあるにもかかわらず、精神疾患の診断率は増えている点です。

新たなリスク要因としては、

  • 思春期の殺人率の上昇
  • SNSやネットの過剰利用(特に13時間以上の利用)
    が挙げられます。これらが子どもたちの心の健康に負担を与えている可能性があるとのことです。

社会として求められる対応

子どものメンタルヘルスは、そのまま学業、社会適応、将来の就労や人間関係にまで波及する深刻な問題です。

今後の課題としては、

  • 早期診断と早期介入の体制整備
  • 学校や地域の医療機関によるサポート強化
    が求められています。

ただし現在、メディケイドの予算削減が議会で検討されており、これまでの支援体制の維持さえ危うくなる可能性があります。

まとめ ~子どもの心の健康をどう守るか~

この研究が示すのは、子どものメンタルヘルスへの取り組みはまだ足りないという事実です。保険制度の充実やスクリーニングの拡大によって可視化された問題の背景には、現代社会ならではの要因が複雑に絡んでいます。

日本においても、子どもの視覚や発達、心の問題を早期に拾い上げる支援体制の強化が求められています。当院では眼科の立場からも、子どもの健やかな発達と福祉に目を向け、必要に応じて多職種との連携を進めてまいります。

 

ヴィッキー・ワチーノほか、 JAMA 2025424日公開

doi:10.1001/jama.2025.6359 related articles icon

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