視力低下の原因となる「先天眼振(乳児眼振)」とは?
― 遺伝子と検査の現状について ―
赤ちゃんのころから目が小刻みに揺れている状態を「先天眼振(乳児眼振)」といいます。多くは生後6か月以内に気づかれ、左右にゆらゆらと揺れることが多いのが特徴です。視線の向きによって揺れが強くなったり弱くなったりし、揺れが最も少なくなる方向(ヌルポイント)を探して顔を少し回したり、頭を傾けたりするお子さんもいます。
では、なぜ視力が下がるのでしょうか。眼振そのものが“手ブレ写真”のように網膜像を揺らしてしまうことに加え、①強い遠視や乱視などの屈折異常、②斜視、③黄斑(ものを見る中心部)の発達不全、④網膜疾患や眼白皮症など別の病気が隠れている場合など、さまざまな要因が重なることで視力が低下します。つまり「揺れていること」だけでなく、その背景に何があるかを丁寧に調べることが重要なのです。
原因遺伝子の代表 ― FRMD7
先天眼振の中で最もよく知られている原因遺伝子がFRMD7です。X染色体上にある遺伝子で、X連鎖性に遺伝します。男性はX染色体を1本しか持たないため発症しやすく、家系内で男性に多い傾向がありますが、女性も発症することがあります。FRMD7は眼球運動を安定させる神経回路の発達に関与すると考えられており、その働きがうまくいかないと固視が安定せず、持続的な眼振が起こると推測されています。
FRMD7関連の眼振では、網膜や視神経に大きな異常が見つからないことが多く、視力は軽度から中等度低下にとどまることが少なくありません。ただし、すべてがこの型というわけではありません。
他にも、
・GPR143(眼白皮症の原因遺伝子)
・PAX6(黄斑低形成や前眼部形成異常)
・CACNA1F(網膜機能異常を伴う疾患)
などが関与することがあります。
そのため、OCT(網膜断層撮影)やERG(網膜電図)などの検査で背景疾患を見極めることが、遺伝子検査の選択にもつながります。
FRMD7遺伝子検査とは?
FRMD7遺伝子検査は、血液や頬粘膜からDNAを採取し、遺伝子配列に変異があるかを調べる検査です。変異が確認されれば、その眼振が遺伝的に説明できる可能性が高くなり、家族内発症リスクや将来の遺伝相談に役立ちます。
ただし注意点もあります。
・FRMD7以外の遺伝子が原因のこともある
・変異が見つかっても治療法が直ちに変わるとは限らない
・結果の解釈には専門的判断が必要
したがって、遺伝子検査は単独で行うものではなく、眼科診察と遺伝カウンセリングを組み合わせて進めることが大切です。
日本で遺伝子検査はできるの?
現状、日本では「乳児眼振だけ」を対象とした全国一律の保険パネル検査は整備されていません。しかし、大学病院や総合病院の遺伝外来・眼科遺伝外来を通じて検査を受けることは可能です。
相談しやすい候補としては、
● 国立成育医療研究センター(総合診療遺伝・医療センター)
● 国立病院機構 東京医療センター(眼科遺伝外来)
● 各大学病院の遺伝医療部・遺伝カウンセリング外来
などがあります。
また、民間の包括的眼疾患NGSパネル検査(多数の眼疾患関連遺伝子を同時解析する検査)を利用できる場合もあり、その中にFRMD7が含まれていることもあります。ただし自費となることが多く、事前の十分な説明が必要です。
実際の流れ
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まずは眼科で視機能評価
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背景疾患の除外(OCT・ERGなど)
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遺伝カウンセリング
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必要に応じて遺伝子検査
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結果説明とフォロー
という順序が一般的です。
まとめ
先天眼振は「目が揺れる病気」ではありますが、本当に大切なのはその背景に何があるかを見極めることです。FRMD7型の特発性なのか、網膜疾患や眼白皮症が関与しているのかによって、視力の見通しや家族への説明内容は変わります。
遺伝子検査は万能ではありませんが、診断の確定や将来の見通しを考えるうえで有力な手段です。必要に応じて専門施設と連携し、丁寧に進めていくことが重要です。
お子さんの眼振でご心配な場合は、まずは眼科での精密検査から始めましょう。そのうえで、遺伝医療という選択肢を検討することができます。
清澤の注記:いきなり近隣の大学病院を訪ねても的確な対応を得ることはむつかしそうです。お近くの眼科医院(または当医院)で、診察を受けたうえで、小児であれば国立成育医療研究センター(総合診療遺伝・医療センター)、(患者さんは15歳以下のみが対象)へ、また成人であれば国立病院機構 東京医療センター(眼科遺伝外来)あての実質的な予備検査の内容の有る紹介状を作成してもらったうえでご相談になることが正しい対応への糸口になることが期待できそうに思われます。いきなり専門病院の門を叩いても正しいドアにはたどり着けないつけない恐れが大きそうです。



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