小児の眼科疾患

[No.549] 先天眼振の診断と治療

先天眼振の診断と治療

眼振とは、眼球が律動的に不随意に行きかえりする運動のことです。

その揺れ方や揺れる方向などによって、まず先に治療すべき脳腫瘍など病気の本体を指し示す様々な診断的な意味を持つものがあります。しかし、そのかなりの部分を占めるのが先天性の眼振と呼ばれるものです。

出生直後ないし幼少時に眼振を持つものを先天眼振と呼び、この多くは一生持続するものです。

○ 先天眼振は大きく2つの群に分けられていてそれには、

1、 振子様(pendular:振動の行きと帰りの早さに差が見られない)の眼振と

2、 衝動性眼振(ゆっくりずれて行き、さっと戻る運動を繰り返す)

があります。

○ Coganは、

振子様眼振は眼球運動を支配する神経系の異常で起きるものである、

衝動性眼振は視覚系の傷害(つまり、全色盲、白子、虹彩欠損、視神経疾患など)が基礎にあって起こると説明しました。(その正否にはいまだに様々な意見がありますが)

◎ 先天眼振の特徴は

1、 両眼性の眼振である。

2、 眼振の動きは左右でほぼ同じである

3、 水平性の揺れが多い

4、 顔の回転、斜頚などの頭位異常や首振などの異常運動を伴うことが多い

5、 後天性のものと違って、動揺視の自覚がない

6、 遠視や乱視などの屈折異常を合併するものが多い

7、 固視努力で増大することが多い

8、 輻輳や閉瞼で抑制されることが知られている。

9、 斜め前方に眼振の緩む静止位が見られる。

10、 側方視時に増強するアレクサンダーの法則という特徴を持つ

などがあります。これらが先天眼振の特徴です。

○これらの条件がそろったら、MRI位は安全のために調べた上ででも先天眼振と診断してよいでしょう。

◎ 先天性の眼振と診断できて、さらに視力の低下がわずかであれば特に治療を求める必要はありません

○ また、聞くところによると10歳について0.1くらいの視力の発達が相当期間得られると言う話もあり、絶望する必要はありません(清澤が昔、米国の専門家に聞いた記憶です)。

○ しかし視力の低下を軽減したいと言う場合には、先天眼振と診断が決まりますと、次には眼振の強度を、(振幅 x 頻度)

で計算し、これが最小になる視線の向き即ち静止位を求めることが試みられます。

○ それは、先天眼振の治療では静止位を正面に持ってくるようにするのが原則だからです。

◎ そもそも、眼振のある眼の視力がよい条件としては次の3つが示されています。

1、 網膜の中心窩を中心とする0.5度以内で捕らえる時間が長い

2、 そのときの眼振の緩徐相の速度が秒速4度以下である

3、 固視の位置の変動が少ない。

この条件載すべてを得られる治療法はありませんが、少しでもこの条件に合う状態に近づけようとして治療を試みるわけです。

◎ 先天眼振の治療法を示します

具体的には

1、 非観血的療法

(1) プリズム療法:(清澤注:これは試す価値が十分にあるでしょう。)

(ア) 輻輳(内寄せ)をさせるもの。

(イ) 両眼を同じ方向に向けてずらし静止位を正面に持ってくるもの。膜プリズム利用で20度までの移動が可能とされています

(ウ) 上の2法の組み合わせ

(2) バイオフィードバック療法:眼振をスピーカーで音にして患者に聞かせ、音に小さくなる視線の方向、つまり視力の出るはずの眼の向きの方向を自覚させる方法です。(清澤注:大昔(25年も前)に私が在籍したころの北里大学でやってみていたが現在もやっているところがあるかどうかは不明です)

(3) 東洋の鍼(清澤注;この効果を私は知りません)

(4) 薬物療法:アモバルビタールなどが試みられたという報告が過去にある程度です

2)手術療法:頭位の異常を直すための手術と、眼振そのものの軽減を目指すものがあります。これには、いくつかの標準的な術式が存在します。そして、殊に静止位のないものでは4歳までの手術を勧める人もいます。

しかし手術適応についての学会での定説はまだありません。(つまり、先天眼振を手術すべきかどうかの眼科全体でのコンセンサスさえもまだない手探りの状態であることを認識してください。最近翻訳が出されたエビデンス眼科(樋田哲夫 監訳)にも眼振の手術の項目はありませんでした。)

もし手術治療を受けることを考えるのであれば、小児の斜視手術に十分に習熟していて、殊に(通常では行われていない)眼振の手術治療の経験も少なくない眼科医に相談し、その手術の利害得失を(親子共々)十分に納得してから受けていただく必要があります。(注:これは決して清澤が手術を受けないほうが良いといっているわけではありません。念のため)

(具体的な専門医名については個別にご相談ください。相談者がいたら考えます)

注:子供さんが先天眼振と言う診断を受けて心配している親御さんが折られることを想定してこのブログを書いています。この文章をまとめるのにあたって、私は新臨床眼科学(編集:三村 治 先生)などを参考にいたしました。

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