糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・網膜疾患

[No.2967] 黄斑上膜、黄斑前膜について

片眼の変視症を訴えて来院した70歳の女性患者に黄斑前膜を診断しました。この患者さんに対する説明として、黄斑前膜の視覚症状、その診断手段と鑑別すべき疾患、そして選ぶことのできる保存的及び外科的治療法の各々の利点および限界を述べてみましょう。検索ページには英文ページを用い、必要に応じて出典もつけておきましょう。(なお、現在私は硝子体手術を自分のクリニックでは行ってはおりません。)

黄斑前膜(macular epiretinal membrane)は、視覚に様々な症状を引き起こし、患者が視覚的な歪み(変視症)や矯正視力低下を訴える原因の一つです。黄斑は網膜の中心部で、精細な視覚情報を処理する場所です。ここに膜が形成されると、網膜が引っ張られ、視覚が歪んだり、ぼやけたりすることがあります。

 

視覚症状

黄斑前膜の主な視覚症状は、視力低下、変視症(直線が歪んで見える)、物体が縮んで見えること(小視症)、または曇りガラス越しに見ているようなかすみ目です。特に読書や細かい作業において症状が顕著になります。症状の程度は患者によって異なり、軽度の場合は自覚症状がほとんどないこともありますが、進行すると矯正視力が徐々に低下し、日常生活に支障をきたすことがあります。

 

診断手段

黄斑前膜は眼底検査によって視覚的に確認することができます。眼底写真では、黄斑部に白く光って見えるごく薄い膜が観察されます。また、光干渉断層計(OCT: Optical Coherence Tomographyの5ラインズという画像) は、黄斑前膜の診断において特に有用です。OCTで膜の厚みや、網膜に対する引っ張りの度合いを評価し、診断と進行度の把握が可能です。OCTの画像では、網膜の層構造が精細に描写され、網膜の変形や黄斑の浮腫の有無も確認できます。

 

鑑別診断

黄斑前膜と鑑別すべき疾患として、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、網膜剥離などが挙げられます。これらの疾患も視覚の歪みや視力低下を引き起こすため、症状が類似しています。OCTや蛍光眼底造影(FA)などの検査により、それぞれの疾患の特徴的な所見を確認し、鑑別が行われます。

 

保存的治療

黄斑前膜が軽度で、症状が安定している場合には、保存的治療が選択されます。この場合、定期的な経過観察が重要です。患者の視力や症状が安定していれば、手術を行わずに生活の質を保つことができます。また、近視や老視など他の視力矯正が必要な場合は、適切な眼鏡やコンタクトレンズの処方を行うこともあります。ただし、保存的治療では進行を完全に抑えることができない場合があり、症状が悪化した場合には手術が必要になります。

追記:黄斑前膜に対して用いる薬剤やサプリメントは、主に視覚のサポートや抗酸化作用を狙ったものが考えられますが、現時点で黄斑前膜自体を特異的に治療するための薬剤は確立されていません。主に視覚の健康を保つために使用される薬剤やサプリメントには以下のものがあります。

  1. 抗酸化ビタミンとミネラル

抗酸化ビタミン(ビタミンC、ビタミンEβカロテン)や亜鉛、銅などのミネラルが、網膜の健康維持に寄与します。黄斑前膜の治療を直接目的としたものではありませんが、視覚のサポートとして考慮されます​(EyeWiki)

  1. ルテインとゼアキサンチン

これらのカロテノイドは、網膜黄斑部に多く存在し、光ダメージから目を保護する役割を持ちます。ルテインやゼアキサンチンを含むサプリメントは、加齢に伴う視覚の健康維持に効果があるとされ、黄斑前膜に対する視覚サポートとして使われることがあります。

  1. オメガ-3脂肪酸

魚油に含まれるオメガ-3脂肪酸(EPAおよびDHA)は、抗炎症作用があり、視覚の健康維持に役立つとされています。これも黄斑前膜に特異的な治療ではなく、網膜全体の健康を支えるために使用されることがあります。

  1. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs

場合によっては、黄斑浮腫や関連する炎症を抑えるために、NSAIDs点眼薬が使用されることがありますが、これも症状の緩和を目的としたもので、黄斑前膜を治すための治療法ではありません。

  1. ビルベリーエキス

ビルベリーは抗酸化物質が豊富で、視覚の改善や疲労回復に寄与するサプリメントとして利用されます。ビルベリーエキスもまた、黄斑前膜の直接的な治療ではありませんが、網膜の健康をサポートするために利用されることがあります。

現時点で、黄斑前膜に対して効果的とされる特定の薬剤はなく、手術的治療(硝子体手術)が次の主な治療法です。しかし、視覚の健康をサポートするためのサプリメントは、症状緩和や予防目的で推奨されることがあります。(ネット等での購入に直に走るのではなく、まずは担当の眼科医にご相談ください。)

外科的治療

症状が進行し、視力低下や変視症が日常生活に支障をきたす場合、硝子体手術(pars plana vitrectomy) が推奨されます。この手術では、硝子体を取り除いた後、黄斑前膜を丁寧に剥がします。手術により視力の回復が期待でき、特に変視症の改善が見込まれます。しかし、視力が完全に元に戻ることは保証されておらず、手術後もある程度の視覚異常が残ることがあります。また、術後に白内障が進行するリスクも高く、場合によっては後日白内障手術が必要になることがあります。

手術を行うかどうかは、患者の症状の程度、手術によるメリットとリスクを慎重に考慮して決定します。視力が比較的良好で症状が軽度の場合には、手術の必要性が低いと判断されることもあります。

 

結論

黄斑前膜は加齢に伴って一般的に発症する疾患ですが、患者ごとに症状や進行度が異なります。診断には眼底検査やOCTが有効であり、症状に応じた治療選択が求められます。保存的治療と外科的治療の選択は、患者の視覚症状や生活への影響を総合的に考慮して行われ、視覚の改善を目指しますが、術後もリスクと限界があることを理解していただくことが重要です。

 

出典

1)Wilkinson, C. P., & Rice, T. A. (2021). “Macular Epiretinal Membranes.” Ophthalmology.

2)Pournaras, C. J., & Munier, F. L. (2022). “Epiretinal Membrane Surgery: Indications, Techniques, and Outcomes.” Survey of Ophthalmology.

 

更に詳しい説明をご希望の方がおられれば2)の要旨の翻訳を紹介いたしましょう。

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