糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・網膜疾患

[No.3344] レチノスキシス(網膜分離症)とは

幼少期からの男性の視力低下を示し、黄斑部に車軸状の変化を示すX連鎖網膜分裂症(XLRS)の遺伝子型と臨床症状の関係について言及した論文の紹介です。(Ophthalmology Retina3号の内容をメールで受け取りました。)

まず最初に復習としてレチノスキシスとは:

X連鎖網膜分裂症(XLRS)とは?

X連鎖網膜分裂症(XLRS)は、網膜(目の奥にある光を感じる部分)が正常に発達せず、視力の低下や視界のゆがみを引き起こす遺伝性疾患です。

原因(遺伝子型)

XLRSRS1遺伝子の変異によって起こります。この遺伝子は、網膜の細胞同士をつなぐレチノスキシンというタンパク質を作る役割を持っています。RS1遺伝子はX染色体上にあり、男性(XY)に多く発症し、女性(XX)は保因者として遺伝を伝えることが多いです。

主な症状

  • 幼少期からの視力低下(軽度〜中等度)
  • 視界のゆがみちらつき
  • 黄斑部(視力をつかさどる中心部)の分裂
  • 網膜電図(ERG)の異常b波が小さくなる特徴)
  • 網膜剥離や出血を伴うことも

診断と治療

診断は眼底検査、光干渉断層計(OCT)、網膜電図(ERG)、遺伝子検査で行います。現在、根本的な治療法はありませんが、定期的な眼科受診が大切です。将来的に遺伝子治療の研究が進められています。(図はネットから借用, 次の記事は2021年の当ブログ記事。当時は遺伝、RS1遺伝子の異常によって起こる先天性網膜疾患としての言及はなかったです。)

網膜分離症 (Retinoschisis レチノスキシス)とは

それでは今回の論文の要点は:

X連鎖網膜分裂症(XLRS)の遺伝子型と臨床症状の関係について:韓国の83人の患者を対象とした研究

  1. はじめに

X連鎖網膜分裂症(XLRS)は、若年性に発症する遺伝性の網膜疾患であり、視力の低下や視界のゆがみを引き起こします。これは「レチノシシン1RS1)」というタンパク質の異常によって網膜の構造が崩れることで発症します。本研究では、韓国のXLRS患者83名を対象に、遺伝子型と臨床症状の関連性を調べました。特に、RS1の分泌能力が病気の重症度にどのように影響するのかを検討しました。

  1. 研究の概要

この研究は、XLRS患者の遺伝的特徴と臨床所見を比較した観察研究(レトロスペクティブスタディ)です。83名の男性患者(両眼で計166眼)のデータを解析しました。

調査方法

  • 視力検査(BCVA
  • 眼底写真撮影
  • OCT(光干渉断層計)による網膜の詳細画像解析
  • 網膜電図(ERG)による網膜の電気的反応の測定

さらに、RS1遺伝子の変異の種類に着目し、以下の2つのグループに分類しました。

  1. 突然変異の種類
    • 切断型(タンパク質が途中で作られなくなる)
    • ミスセンス型(アミノ酸の変化による機能異常)
  2. RS1の分泌能力
    • 分泌型(正常に細胞外へ放出される)
    • 非分泌型(分泌できず細胞内にとどまる)
  1. 研究の結果
  • 視力(BCVA
    • 平均視力は診断時で0.75±0.59、最終的には**0.82±0.65**でした。
    • 突然変異の種類(切断型とミスセンス型)による視力の違いは統計的に有意ではありませんでした。
    • しかし、**RS1を分泌できるグループは、分泌できないグループよりも視力が良い(p=0.021**ことが分かりました。
  • 網膜の状態(OCT解析)
    • **非分泌型の患者では、網膜の楕円体領域(EZ)が乱れる頻度が高い(p=0.030**ことが確認されました。
    • ただし、その他のOCTパラメータでは明確な違いは見られませんでした。
  • 網膜電図(ERG
    • 両グループでのERGの反応に有意な差は認められませんでした。
  1. 研究の結論

この研究では、RS1遺伝子の分泌能力がXLRSの病態に影響を与える可能性が示されました。具体的には、RS1を分泌できる患者の方が、均一な臨床症状を示し、視力も良好であることが分かりました。一方、RS1が分泌できない患者では、網膜の異常がより強く現れ、視力が低下しやすい傾向にありました。

  1. 今後の展望

今回の研究結果は、XLRSの治療戦略を考える上で重要な知見を提供しています。特に、遺伝子治療を行う際には、RS1の分泌能力を維持することが鍵となる可能性があります。今後は、XLRSのより効果的な治療法の開発に向け、さらなる研究が求められます。

  1. まとめ
  • XLRSRS1遺伝子の異常によって起こる先天性網膜疾患
  • RS1が分泌できる患者は、視力が良好で、症状のばらつきが少ない
  • RS1を分泌できない患者は、網膜の構造異常が強く、視力も低下しやすい
  • この知見は、将来的なXLRSの治療戦略に役立つ可能性がある

この研究の結果は、XLRSの患者に対する診断や治療の理解を深める上で貴重な情報を提供しています。今後のさらなる研究によって、XLRSに対する新しい治療法の開発が期待されます。

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