網膜に「動脈性の出血」を示す主な疾患
■ 網膜に「動脈性の出血」を示す主な疾患とその特徴
網膜の出血には静脈性と動脈性があります。動脈性出血は鮮紅色で“勢いのある”印象を持ち、しばしば動脈の走行に沿って小さく散在するのが特徴です。血管壁が急に破れたり、全身の高血圧が急激に悪化した場合に起こりやすく、静脈側の暗赤色の斑状出血とは外観が異なります。
① 網膜動脈閉塞症(CRAO/BRAO)
網膜動脈が詰まることで突然高度の視力低下を起こす疾患です。網膜は虚血により白濁し、中心窩が赤く見える“cherry-red spot”が典型的です。動脈性出血は多くありませんが、急性期に内境界膜直下の細い線状の新鮮出血が出ることがあります。微小で限局性であることが特徴で、動脈閉塞の急性虚血を反映しています。
② 急性悪性高血圧による網膜症
血圧の急上昇により、網膜動脈が傷み、火焔状(flame-shaped)出血が多発します。これは神経線維層に沿うため動脈性の色調が強く、鮮紅色で新鮮な点が特徴です。軟性白斑や乳頭浮腫を伴うと悪性高血圧の証拠であり、全身管理が急務となります。
③ 網膜動脈瘤(RAM:Retinal Arterial Macroaneurysm)
高齢女性に多く、動脈壁の脆弱化で瘤が形成されます。破裂すると、**鮮紅色の網膜内出血、網膜下出血、硝子体出血が同時に起こる“層状出血(サンドイッチ像)”**が特徴です。動脈走行上にこぶ状隆起を認めることもあり、最も典型的な動脈性出血の原因といえます。自然消退することもありますが、黄斑下出血が広いと視力予後は不良です。
④ 網膜動脈炎(結節性多発動脈炎・高安病など)
動脈壁に炎症が起きると、血管が白く濁る**白鞘化(sheathing)**が生じ、血管壁が破れやすくなります。そのため、小さな鮮紅色の斑状出血が動脈の近くに散在します。全身性血管炎に伴うことが多く、虹彩炎や網膜浮腫が同時に見られる場合もあります。静脈炎主体の疾患とは異なり、動脈優位の炎症の場合に動脈性出血が問題となります。
⑤ 網膜裂孔に伴う急性網膜外層の動脈性出血
網膜裂孔が生じた際、短後毛様体動脈からの小出血が網膜外層に出ることがあります。特に強度近視では、後部硝子体剥離の牽引で裂孔が生じやすく、急性の鮮紅色の限局した出血が特徴です。網膜剥離予防のため早期治療が重要です。
⑥ 若年性特発性(Valsalva)網膜症に見られる新鮮出血
咳、いきみ、重労働などに伴う静脈圧急上昇で出血しますが、前毛細血管レベルでは動脈性に近い新鮮で明るい赤色の出血像を示すことがあります。多くは自然吸収し、後遺症は少ない疾患です。
■ まとめ:動脈性出血の診断ポイント
動脈性の網膜出血は
① 鮮紅色
② 限局性で新鮮
③ 動脈に沿うことが多い
④ 背景に急性の血圧変動や動脈壁の脆弱性
がある点が特徴です。
特に臨床上重要なのは網膜動脈瘤(RAM)で、層状出血と瘤の指標が見られた場合、まずRAM破裂を疑います。



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