糖尿病網膜症(2)治療法はレーザーや手術から注射へ
60歳からの健康術 15 公開日:2022年06月17日
前回、失明リスクの高い「糖尿病網膜症」への注意を促した。今回はその治療法について自由が丘清澤眼科の清澤源弘院長に聞いた。
「この病気が厄介なのは、無症状で進行することです。視力低下や視野が狭まる、視界が暗くなるなどの症状を自覚したときには治療が困難な段階になっていることが少なくありません」
そもそもなぜ糖尿病の人が目にダメージを受けるのかといえば、網膜で酸素と栄養が不足するからだ。
「眼底には眼球を内側で覆っている網膜という組織があり、目の中に入ってくる外界の光を電気信号に変えて脳に伝える働きを担っています。私たちがものを見ることができるのはそのおかげです」
その網膜には視細胞が密集しており、それに酸素や栄養を送るために多くの血管が集まっている。糖尿病になると血糖値が上昇し、網膜の血管が詰まったり破れたりする。
「その結果、出血によって視界が狭くなり、網膜に十分な栄養が届かなくなり、視力低下や最悪の場合は失明につながるというわけです」
この病気は、進行の程度により3つに分類される。厳格な血糖コントロールで改善が期待できる「単純糖尿病網膜症」、網膜を走る毛細血管が閉塞して網膜が栄養不足に陥った状態である「前増殖糖尿病網膜症」、新生血管が多くみられ容易に出血する段階である「増殖糖尿病網膜症」だ。
治療にはいくつかの方法がある。レーザー治療(網膜光凝固術)は主に網膜の酸素不足を解消して、新生血管の発生を予防し、すでに出現してしまった新生血管を減らすことが狙い。正常な網膜の一部を犠牲にしてでも、これ以上糖尿病網膜症を進行させないためのものだ。むくみが減れば視力は上がるが、多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下する。
硝子体手術は目の中の出血(眼底出血)や増殖した組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻すが難易度が高い。かつては手術で失明する人も少なくなかったが、新たに登場した小切開硝子体手術で手術成績は安定した。
最近、注目されているのは抗VEGF薬を眼球内に注射する治療法。網膜に新生血管ができて血管から血液や血漿成分が漏れて網膜中央の黄斑部にむくみができるのを防ぎ、病状の進行を抑制する。
「こうした状況はすべてVEGF(血管内皮増殖因子)と呼ばれるタンパク質の働きによるものとされ、それを阻害することで深刻な視力障害の発生を抑えようとする最新治療です。費用がかかりますが、米国ではこの治療法の登場でレーザー治療や硝子体手術が半減したといわれています」
糖尿病網膜症は早期に発見できれば良い治療法がある。まずは検査を受けることだ。
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