糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・網膜疾患

[No.1505] 加齢黄斑変性の病態仮説:安川力(名古屋市立大学)

清澤のコメント:本日手許に届いた日本眼科学会雑誌の127巻3号は日眼総会/評議員会指名公園総説の特集です。いずれも難解な論文で、抄録だけを読み下そうとしてもなかなかついてゆけないです。第126回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演、眼科診断・治療のイノベーションから、「加齢黄斑変性の病態仮説 安川力 名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学」は少し取りつき易そうなので、抄録を抄出してみます。
ドルーゼンが加齢黄斑変性の先駆病変だ。硬性ドルーゼンはRPEの細胞膜由来であり,RPEの細胞膜の出芽(budding)が正常に機能しなかった産物であることが示唆され,リポフスチンの細胞質内の占拠が物理的な影響を及ぼしている。RPE細胞の三次元球体培養システムを確立して調べたら、最表層に弾性線維,1型および4型コラーゲンからなるBruch膜様構造を認める球状塊を形成したという。リポフスチンのRPE細胞内への負荷は葉状仮足の伸展機能を障害し,硬性ドルーゼンが生成された(volume stress説)という。アミロイドはリポ蛋白質の排泄機構に関与し,肥満細胞やマクロファージなどが動員され,AMDを発症するという。
 

ドルーゼンとは、健康診断での眼底カメラで指摘されることもよくある。高齢者で増加している、加齢黄斑変性の前触れ。網膜にある、光を感じる視細胞をささえている網膜色素上皮の障害で、網膜の下にゴミ(老廃物)が蓄積した状態。ドルーゼン自体で視力がさがることはないが、ドルーゼンが増えることは、網膜色素上皮の機能低下をあらわしており、加齢黄斑変性のリスクが確実に上がる

    ーーー抄録を抄出ーーーー 

加齢黄斑変性(AMD)は数十年の歳月をかけて蓄積する眼の加齢変化を背景に,ドルーゼンなどの前駆病変に始まり,多くは50歳以降,高齢になるほど発症リスクが高まる疾患である.現在は滲出型AMDの黄斑新生血管を標的とした抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬療法や光線力学的療法が主体であるが,治療の限界や合併症,医療経済の圧迫など多くの問題を抱えている.AMDは理想的には一次予防すべき疾患であり,また,現状の頻回治療を要する問題の解消や,視力低下の要因である線維性瘢痕や黄斑萎縮に対する新規治療法の開発はアンメットニーズである.AMDの病態を解明することで新規の予防や治療法の開発につながるが,そのためには,AMDのkey playerである網膜色素上皮(RPE)の生理機能と関連する加齢変化を理解する必要がある
眼内の第一の加齢変化であるRPE細胞内のリポフスチン蓄積を,模擬微粒子を用いて家兎で再現したところ,硬性ドルーゼン,異常眼底自発蛍光,脈絡膜新生血管,地図状萎縮と類似の所見を再現することができた.透過型電子顕微鏡による生成直後の硬性ドルーゼンの観察の結果,硬性ドルーゼンはRPEの細胞膜由来であり,RPEの細胞膜の出芽(budding)が正常に機能しなかった産物であることが示唆され,リポフスチンの細胞質内の占拠が物理的な影響を及ぼしている可能性が考えられた.次にRPE細胞の三次元球体培養システムを確立した.丸底の96穴培養皿にてメチルセルロース添加培養液で培養したRPE細胞は球状塊となり,内部は速やかにアポトーシスを起こし,血清に触れる表面を基底膜側とした1層の上皮を形成した.そして最表層に弾性線維,1型および4型コラーゲンからなるBruch膜様構造を認めた.この培養システムにより,Bruch膜の形成機序を明らかにすることができた.すなわち,①血清のおそらく高カルシウムの曝露により,カルシウムチャネルとカルシウムイオン活性化塩素チャネル(この異常はBest病の原因)の働きで,RPE細胞は効率よく葉状仮足を伸ばして自らを被覆②葉状仮足の内部にあるアクチン線維がRhoA-ROCKの作用で収縮(purse-string contraction)(細胞や組織の欠損部位をつなぎ合わせる創傷治癒や脱分化と関連する上皮間葉転換と共通の機能)が働き,その駆動力でコンパクトな球状塊となる,③葉状仮足内にトロポエラスチン顆粒を,細胞と葉状仮足の間に4型コラーゲン原線維を分泌して,それぞれ効率よく弾性線維層と基底膜を形成する,④1型コラーゲン原線維を分泌してBruch膜が形成されると考えられた.RPEにはこのBruch膜のリモデリング機能を発揮しながら,貪食した細胞膜(生理的には視細胞外節,培養系では内部のアポトーシスした細胞)由来のリポ蛋白質を分泌する機能を有していることが分かった.リポフスチンのRPE細胞内への物理的な負荷はこの葉状仮足の伸展機能を障害し,硬性ドルーゼンが生成されることが本培養系でも確認できた(volume stress説).リポフスチン蓄積が顕著になる30代以降から観察される第二の加齢変化であるRPE直下の脂質沈着を認め,リポフスチン蓄積が脂質沈着の原因であると考えられた.Bruch膜の加齢性沈着物の中にはリポ蛋白質のほかに膜性排泄物がある.これはBruch膜のリモデリング機構でRPE細胞のbudding/sheddingによりvolume stressの解消のために放出される細胞膜であり,補体の活性化はこの処理に利用されていると考えられた.アミロイドはリポ蛋白質の排泄機構に関与し,沈着脂質の過酸化による酸化ストレスから慢性炎症が生じ,Bruch膜のリモデリングに肥満細胞が,過酸化脂質の放出にマクロファージなどが動員され,AMDを発症すると考えられた.
パキコロイド関連疾患/典型AMD/網膜血管腫状増殖/萎縮型AMDなどの病型に関しては,RPEの分泌するVEGFの過剰発現に関連するRPE下の沈着脂質の量と,RPEのバリア機能の障害のバランスで決まると考えられた.さらに病態末期にはRPEの萎縮の要素(VEGFの発現が低下する一方,バリア構築が困難となる)が関与してくると考えられた.
本総説では,視細胞―RPE―脈絡膜毛細血管の相互の関わりとRPEの生理機能および加齢変化を概説し,これまでの知見を総合して,AMDの病態仮説,Best病の病態,AMDの各種ドルーゼンの生成機序,AMDの異常眼底自発蛍光の発生機序などの仮説を提唱する.(日眼会誌127:329-366,2023)

キーワード
加齢黄斑変性(AMD), ドルーゼン, 網膜色素上皮(RPE), レチノイドサイクル, リポフスチン
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