
春の黄色いじゅうたん ― 菜の花と目の健康の話
晴れた日曜日の午後、高円寺の桃園川緑道公園を歩いていると、鮮やかな黄色の花が目に入りました。春を代表する花、菜の花(ナノハナ)です。ほかの花のように植えられたのではなく雑草として生えてしまったものです。一本の細い茎の先に小さな四枚の花びらを持つ花が集まって咲き、まるで小さなブーケのように見えます。この花はアブラナ科の植物で、学名は Brassica rapa あるいはそれに近い栽培系統で、日本では古くから食用や油の原料として栽培されてきました。
菜の花の特徴は、鮮やかな黄色と、春の野に広がる群生です。一本の花も可憐ですが、畑や河川敷で群れになって咲くと、その景色はまさに「黄色いじゅうたん」と呼ぶにふさわしい壮観さになります。私自身、宮城県松島湾の桂島で見た菜の花畑を思い出します。海風の中で揺れる黄色い花の群れは印象的でした。また、パリに着陸する直前の飛行機から下を眺めたとき、フランスの農地の中に広がる菜の花畑がパッチワークのように見えたこともあります。ヨーロッパでは菜の花は主に菜種油(キャノーラ油)の原料として大規模に栽培されており、春になると広大な黄色の農地が現れます。
東京近郊にも菜の花の名所はいくつかあります。代表的なのは千葉県のマザー牧場で、春になると丘一面が黄色に染まります。また、千葉県のいすみ鉄道沿線では、列車と菜の花の組み合わせが有名です。神奈川県では吾妻山公園の丘の上に広がる菜の花畑が知られており、富士山と相模湾を背景に黄色い花が広がる景色が春の風物詩となっています。さらに、東京都内でも江戸川や荒川の河川敷では、春になると自然に菜の花が群生し、市民の散歩道を明るく彩っています。
さて、この菜の花には目に関する小さなトリビアもあります。菜の花はビタミンや抗酸化物質を多く含む野菜として知られており、食用の若い花芽は春の食卓の代表的な山菜です。特に含まれているβカロテンは体内でビタミンAに変換され、網膜の視細胞の働きを助ける栄養素です。ビタミンAは暗い場所で物を見る能力、いわゆる暗順応に関係する重要な栄養素で、不足すると夜盲症の原因になることがあります。また、菜の花に含まれるルテインやビタミンCなどの抗酸化成分は、網膜や水晶体を酸化ストレスから守る働きがあると考えられています。
つまり、菜の花は「見る楽しみ」と「食べる健康」を同時に与えてくれる春の植物とも言えます。少し苦い菜の花のお浸しはこの季節には絶妙です。春の散歩道でこの黄色い花を見かけたときには、ぜひ少し立ち止まり、その明るい色彩を楽しんでください。長い冬を越え、日差しが強くなり、自然が再び動き出したことを知らせる合図のような花です。
高円寺の緑道に咲く一株の菜の花から、松島の島の風景やヨーロッパの広大な農地まで、黄色い花の記憶はさまざまな場所へとつながっていきます。春の光の中で揺れるその姿は、私たちの目にも心にも、明るい季節の到来を伝えてくれているように感じられます。



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