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[No.1249] 救急医のミッドキャリアクライシス・働き続けられる体制の構築を 

救急医のミッドキャリアクライシス・若手からベテランまで長く働き続けられる体制の構築を 対談・座談会 舩越拓,山上浩,千葉拓世,佐藤信宏~抜粋

清澤のコメント:週刊医学界新聞の今週の話題は「救急医のミッドキャリアクライシス・若手からベテランまで長く働き続けられる体制の構築を」というものです。(2022.12.05 週刊医学界新聞(レジデント号):第3496号より抜粋します)

 今後ますます救急医療の充実が求められる日本において,救急医の確保は重要な検討課題と言える。しかし救急医は,ミッドキャリアである40代を契機に,さまざまな理由から救急医療の現場を離れていく。キャリアの中盤に差し掛かった同世代の救急医4氏が救急医を続けていくための可能性を探った。

舩越 救急医は40代を境に救急医療の現場を離れる傾向にあります。そのため,他診療科に比べ平均年齢が低く,50代以上の年長者が少ないことが特徴です。救急科は夜勤・当直が多いことから,年齢を重ねついていけないと感じる人が多いのも一因。

いかに自らを鼓舞し,仕事の価値を実感するか

舩越 救急医療の専門性に対する他の診療科の無理解。救急医療自体が外傷診療から内科的診療・高齢者診療にシフトした。専門性に疑問を感じる人がいる。

佐藤 外来対応が難しい患者が続くと,モチベーション維持がきつくなる時がある。維持できているのは,自分の働いている地域を良くしたいとの気持ちから。

山上 長く現場にいるがモチベーションを維持できている。「自分は内科疾患から外傷まで全身を診られる救急のスペシャリストとして診療している」と考え,他者評価を気にしない。

山上 適切な初療を行うのは実は難しいし,高度な専門性ですよね。

千葉 医師を志し,「優しい医師であること」が仕事を続けるモチベーションになっている。救急搬送されてきた患者を診て,緊急性が低いからと帰宅させるのは医学的には正しいかもしれませんが,その場合でも患者に寄り添いたいと思っている。

舩越 患者に寄り添いたいという気持ちは,米国への留学で?。

千葉 ええ。米国では違法薬物などに手を出す患者が一定数いて,彼らは社会的な問題を抱えていることが多かった。そうして臨床中毒学に興味を持ち,現地で勉強し始めた。すると,私のメンターは中毒の知識だけでなく,患者サポートの方法まで教えてくれた。留学時に感じたのが,海外の医師は自分で自分を労うのが上手ということ。仕事の価値や意義を見いだしやすくなれば,救急医を続けるモチベーションを維持できるかもしれない。

体制を整備し,救急医を続けることで後進に道を示す

舩越 中堅の救急医が減ると,若手が増えづらい悪循環に陥ります。

佐藤 医療を支えるという点でも問題が出てくるはず。40代の医師人材がいなくなるのは組織にとっても痛手。人数が減ると現場の負担がさらに増える。

舩越 「救急医としてのセカンドキャリアの少なさ」が考えられます。救急医は一度現場を退くと開業医になったり在宅医療に進んだりと,救急医として復帰する人が少ない。体力的に夜勤がつらくなってくるのも大きい要因でしょう。

月に何回くらい夜勤がありますか。

舩越 56回くらい22時から翌日の8時までが夜勤の勤務時間だが,40代になって少しきつくなってきたなと感ず。

山上 私も多い時は月6回で,1723時の準夜勤も56回。

千葉 当院は医師のバーンアウトに配慮して,月3回くらいです。

舩越 10年後,20年後も今と同じ回数の夜勤をこなしていくのは厳しいと考える救急医は少なくない中で,皆さんは救急医を続けていくことをどう考えていますか。

佐藤 当科のセンター長はもうすぐ60歳になりますが,いまだ現役バリバリで他の救急医と同様に夜勤をこなしています。

佐藤 当院の夜勤には救急外来と病棟管理があります。病棟管理は途中で仮眠できる日もあり,年長者は病棟管理が多く割り当てられることも続けられる理由の1つ。

千葉 米国でも60歳になっても第一線で働く救急医がいた。やはり年長の救急医は日勤がメインで,夜勤は若手が入っていましたね。

山上 夜勤は若手優先となると若手医師の疲弊につながりそう。救急医の絶対数を確保してシフトが組めるような施設を増やしていくことが求められる。

舩越 日本はER型救急の歴史が浅く,50代以降になってもロールモデルとして活躍する救急医が多くいない。ER型救急が徐々に発展し,われわれの世代がボリュームゾーンになってきたのだと思います。救急医を増やすには,下の世代も継続して働ける仕組みを整備することに加え,「救急医を続けられること」を見せていくのが,われわれの役割。

診るべき患者を“診たい患者”にする力

舩越 救急科志望の若手を増やすには,救急医療の面白さを知ってもらうのが一番私は,救急医療の面白さは病院や地域の救急体制をデザインできる点だと考える。救急医としてステップアップしていくと,存在意義を感じ続けられ息の長いキャリアにつながるはず。皆さんが感じる救急医療の面白さや,救急医として働く魅力を教えてください。

山上 現代社会のニーズに合わせて提供する医療を自分たちでつくっていける点ではないでしょうか。かつて,救急搬送されてくる患者の多くは交通事故で外傷を負った方でした。しかし,現在は高齢者や社会的な問題を抱えた方がほとんどです

舩越 蘇生できる診療能力は救急医のボトムラインとして重要ですが,診療方針の構築においては救命至上主義でなく患者の価値観に合った医療を提供することが救急医に求められていますよね。社会が要請する診るべき患者を“診たい患者”にする力かもしれません。

佐藤 救急医を志すならば,「こういう医師になりたい」という気持ちを強く持ち過ぎないほうが良いと思っています。

 また,救急医は基本的にシフト制勤務のため,オン・オフの切り替えがはっきりとしています。これは救急医として働くメリットと言えるでしょう。

千葉 私生活が充実しないと仕事にも集中できないので,オフの時間をうまく使えるかは重要です。

舩越 子育てが忙しい時期は時短勤務にして,落ち着いてきたらフルタイムに戻すという働き方を取り入れやすいですよね。

千葉 フレキシブルな働き方を全国で推進する上で,解決すべき課題もありますよね。

山上 施設によって状況はさまざまです。産休,育休が取得しやすいことから女性の救急医が集まる施設もあれば,慢性的な人員不足のところもあります。救急医が偏在している現状を解決しなければいけません。

舩越 救急医療を集約化して一施設当たりの救急医が増えれば,高いパフォーマンスを発揮できます。

お互いを励まし合える仲間の存在を大切に

舩越 最後に救急医をめざす研修医や,これからミッドキャリアに差しかかる救急医の後輩たちへメッセージをお願いします。

山上 救急医療は社会のニーズに合わせて在り方が変化していくため,まだ多くの課題があります。私自身はそれらの課題を1つずつクリアしていくのも仕事を続けるモチベーションになっています。

千葉 若い先生方が救急医をめざしたくなるように,われわれ世代の救急医が自分たちの背中を見せて,「救急医療が楽しい」と思わせなければと思いました。

佐藤 自分に何が求められているのかを感じながら医療を支えていってほしい。

舩越 今日の座談会を通じて,お互いの心境を話して励まし合える仲間がいることが何より大切だと感じた。

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