綿密な取材によって描き出す、写実画家の「眼」の裏側を覗く
東京・府中市美術館で、諏訪敦『眼窩裏の火事』展が2023年2月26日まで開催
清澤のコメント:構成・文 澁谷政治の展覧会レポート2023/01/24が配信されています。題名が目に関連したものなので採録します。長いので抄出と します。https://www.artagenda.jp/feature/news/20230124
まるで写真のような絵画。緻密な現代写実画家として知られる諏訪敦の大規模な個展「諏訪敦『眼窩裏の火事』」が、2023年2月26日まで、東京の 府中市美術館 で開催されている。武蔵野美術大学の教授でもあり、アカデミックな視点を合わせ持つ諏訪のユニークな個展のタイトルは、人間の前頭部にある「内側眼窩前頭皮質」(清澤脚注参照)が「美」を感じる部位であるとした、神経美学の石津智大氏による研究成果、そして自身が悩まされる視界に「火事」のように揺らめく閃輝暗点(せんきあんてん)の症状からインスピレーションを受けたものである。
諏訪敦「眼窩裏の火事」 開催美術館:府中市美術館 開催期間:2022年12月17日(土)〜2023年2月26日(日)
裸婦など人物画で語られることの多い諏訪敦は、綿密で膨大な取材により作品を描き出すことでも知られている。彼の名が広く知られた契機の一つが、2008年ボリビア・ウユニ塩湖での不慮の事故で逝去された、婚約直後の若い日本人女性の遺族からの依頼で制作された作品、「恵里子」である。
本展覧会は三部で構成されており、まるでジャーナリストのような姿勢で作品テーマに挑む諏訪の制作の軌跡を追うことができる。『第1章 棄民』は、父を描いた<father>シリーズと、祖母をテーマとした<棄民>シリーズが中心となっている。病床に臥した父を客観的に描いた作品「father」。入院先の一コマを淡々と切り取った写実の背後には、突然直面した事態に困惑する息子と父との距離感も浮かび上がる。やがて他界した父の遺品の中に、知られざる家族の過去、満州・ハルビンの難民収容所で無念の死を遂げた若い祖母と当時幼い叔父の存在を知り、諏訪は旧満州地域を訪れ取材を開始する。
『第2章 静物画について』は、2020年美術誌『芸術新潮』で連載された、デザイナーの猿山修、森岡書店の森岡督行と結成したユニット「藝術探検隊(仮)」による静物画に対する試みにて制作された作品を中心に展示されている。
暗い静謐な空間を抜けた最後のテーマは、『第3章 わたしたちはふたたびであう』。入口には、若くして逝去した医学生の肖像画依頼時に、参考として作成された上半身の石膏像が飾られている。
注:(ウィキペヂアから)Orbitofrontal area
同義語:前頭連合野眼窩部、眼窩前頭前野、前頭前野眼窩部
前頭眼窩野は前頭葉の腹側面(下部)に位置しており、この脳部位には視覚、聴覚、体性感覚とともに味覚、嗅覚情報も収斂している。扁桃体を中心とする辺縁系とも密接な結びつきがある。この脳部位の損傷患者や破壊ザルにおいては情動反応と動機づけ行動に異常が見られる。また学習行動の消去が困難になるとともに、逆転学習に障害が生じる。この脳部位は報酬や嫌悪刺激の価値の評価に関わるとともに、それらの予測、期待にも関係している。またこの脳部位は情動・動機づけに基づく意思決定に重要な役割を果たしている。
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