小児の眼科疾患

[No.3482] 急性後天性内斜視(AACE)についてのコンセンサス紹介です

https://doi.org/10.1016/j.apjo.2025.100134

先のシンポジウムで論じられた急性後天性内斜視についてのコンセンサスをまとめた論文を抄出してみます:

急性後天性内斜視の臨床実践

アジア太平洋斜視評議会と小児眼科学会によるコンセンサスステートメント

  1. イントロダクション

急性後天性内斜視(AACE)は、突然発症し、主に複視を伴う内斜視で、特に若年者に多く見られます。過去10年で有病率が上昇しており、現代社会の生活スタイル(特に近業やデジタル機器使用)が関係していると考えられます。AACEは、筋麻痺を伴わず、両眼視機能が保たれ、予後良好ですが、自然回復は少ないとされます。分類法としてはスワン型、フランチェスケッティ型、ビエルショウスキー型などが知られていますが、すべてを網羅するものではなく、病因に基づく分類が有用です。

  1. 病因

AACEの原因は多岐にわたります:

2.1 過度の近業

スマートフォンやPCの長時間使用が原因となることが多く、収束や調節のけいれんが引き金になる可能性があります。

2.2 融合異常

特にスワン型AACEでは、融合機能の破綻により潜在斜視が顕性化します。

2.3 収束・調節異常

調節反応の不全により、収束努力が過剰となり、内直筋に緊張が生じることで発症します。

2.4 外眼筋の解剖異常

AACE患者では、内直筋の挿入部位が正常より角膜輪部に近接しており、収束・発散のバランスが崩れます。

2.5 中枢神経機能障害

fMRIで中枢視覚系の異常活動が示された症例があります。

2.6 神経疾患との関連

キアリ奇形、脳腫瘍、水頭症などでの発症例があり、特に神経学的症状(頭痛、眼振など)があれば精密検査が必要です。年少で遠視がない場合なども脳画像検査が推奨されます。

  1. 治療総論

治療に際しては、まず器質的・神経的疾患を除外することが必須です。その上で、屈折矯正・プリズム・ボツリヌス注射・手術などを組み合わせて選択します。治療は段階的に行い、侵襲の少ない手段から開始することが望まれます。

  1. 非外科的治療

4.1 プリズム療法

25プリズムジオプター以下の軽度内斜視では有効。両眼視の維持や複視の緩和が期待できます。

4.2 ボツリヌス毒素注射

内直筋への注射で筋力を低下させ、斜視角を縮小させる手法。EMGガイド下や結膜切開なしでも可能。治療効果は偏差角に応じて投与量が調整され、術後早期の効果判定が予後予測に有効です。偏差角が小さい患者や手術を望まない患者に適しています。

  1. 外科的治療

5.1 手術の目的と方法

一般的には内直筋退縮、外直筋切除などの「退縮切除術」が行われます。偏差角が大きい場合に選択されます。

5.2 術前評価

プリズム適応試験(PAT)やベースアウト復旧ポイントにより、潜在偏位の評価を行い、再発リスクを減少させます。

5.3 外科的用量

過少矯正を避けるため、一般の内斜視より高めの矯正量が必要とされます。内直筋退縮で5.11 PD/mm、外直筋切除で2.51 PD/mmの用量反応が報告されています。

5.4 立体視の回復

発症から治療までのタイミングが早いほど、立体視の回復が望めます。治療遅延によって非代償性モノフィックス症候群への進行が懸念されます。

  1. 終わりに(コンセンサスの立場)

本コンセンサスは、AACEに対する診療の統一的な指針を提示するものであり、臨床医が個々の症例に即して判断を行うためのフレームワークです。すべてのケースに当てはまる「唯一の治療法」ではなく、あくまで現時点での推奨と位置づけられています。今後の研究によりさらなる最適治療法の確立が期待されます。

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