アーノルド・キアリ奇形(Arnold-Chiari malformation)と目の不調 ~瞳孔の左右差に潜むサイン~
自由が丘清澤眼科にお越しになる患者さんの中には、めまいや視界のぼやけ、ものが二重に見えるといった症状から検査が進み、最終的に脳神経外科で「アーノルド・キアリ奇形」と診断される方がいらっしゃいます。
今回はこの病気について、特に眼科的に注意すべき「瞳孔の大きさの左右差(瞳孔不同)」を中心に、わかりやすくご説明いたします。
◆ アーノルド・キアリ奇形とは?
アーノルド・キアリ奇形とは、脳の後部にある小脳の一部(小脳扁桃)が、本来の位置から下へずれて脊髄側に入り込んでしまう先天的な構造異常です。小脳が後頭部の大後頭孔という穴を通って、脊髄管内に突出することで、脳幹や脊髄が圧迫され、様々な神経症状を引き起こします。
特に、脳幹から出る視覚・眼球運動・自律神経に関与する神経が影響を受けると、目にも特有の症状が現れます。
◆ アーノルド・キアリ奇形でみられる目の症状
以下のような眼科的症状が報告されています:
-
複視(ものが二重に見える)
→ 動眼神経や外転神経が障害されることで眼球運動に異常が生じます。 -
眼振(目が細かく揺れる)
→ 小脳や脳幹の調整機能の障害によるものです。 -
視力低下や視界のぼやけ
→ 脳脊髄液の循環障害や視神経の圧迫が関与する場合もあります。 -
羞明(まぶしさ)や焦点が合いにくい感覚
-
瞳孔不同(左右の瞳の大きさが異なる)
→ 自律神経経路への圧迫により起こります。
この中でも瞳孔不同は、神経疾患の重要な手がかりになる所見として、眼科診療の現場でも注視されます。
◆ なぜ瞳孔に左右差が出るのか?~神経の走行から理解する~
瞳孔の大きさは、自律神経の働きで調整されています。
-
副交感神経(動眼神経) → 瞳孔を縮める(縮瞳)
-
交感神経 → 瞳孔を広げる(散瞳)
アーノルド・キアリ奇形では、これらの神経が通る脳幹や脊髄上部が圧迫されることで、一方の神経だけが障害を受けることがあり、その結果として瞳孔の左右差が生じます。
例えば:
-
動眼神経の障害 → その側の瞳孔が大きく開いたままになる
-
交感神経の障害 → 瞳孔が小さくなる+まぶたが少し下がる(ホルネル症候群)
◆ 瞳孔不同への対処法:根治から補助療法まで
● 1. 後頭蓋窩減圧術(手術)
アーノルド・キアリ奇形に伴う脳幹の圧迫を根本から改善する治療です。頭蓋骨の一部を削って小脳の圧力を逃がすことで、神経の正常な機能回復が期待されます。瞳孔不同や複視などが改善することもあります。
● 2. 視覚・生活上の補助的対策
-
遮光眼鏡・調光レンズ:
瞳孔不同によるまぶしさや視野の不快感を軽減します。 -
カラーコンタクトレンズ(義眼的デザイン):
審美目的で左右の瞳孔径をそろえるために使われることがあります。 -
一時的な薬物調整(例:アプラクロニジン):
ホルネル症候群の診断補助に使われることがありますが、治療目的には向きません。
◆ 眼科での発見が命を救うことも
眼球の動きや瞳孔の左右差といった所見は、時に大きな疾患のサインです。MRIなどの画像検査を通じて、眼科での所見が脳の構造的異常の発見に繋がることも少なくありません。
◆ 院長からのメッセージ
瞳孔不同は、軽く見られがちな症状ですが、その背後に重大な脳の異常が潜んでいることもあります。当院では、こうしたサインを見逃さず、必要に応じて脳神経外科と連携した診療を行っています。
「目の違和感が続く」「左右の瞳の大きさが違う気がする」といった場合には、どうぞお気軽にご相談ください。早期発見・早期治療が、安心への第一歩です。
コメント