アバレプト懸濁性点眼液は、TRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid 1)拮抗薬という新しい作用機序をもつドライアイ治療薬として、日本国内で製造販売承認を取得した点眼薬です。従来の「涙を補う」「炎症を抑える」といった治療とは異なり、眼表面の“痛み・刺激の感受性”そのものを調節する点が大きな特徴です。
TRPV1は、先生のご記憶どおり、トウガラシの辛味成分カプサイシンに反応する受容体としてよく知られています。神経の末端に存在し、熱や酸、化学刺激などに反応して「痛い」「しみる」「灼ける」といった感覚を生じさせます。眼科領域では、角膜や結膜に分布する知覚神経にもTRPV1が豊富に存在しており、ドライアイに伴う眼痛、異物感、灼熱感、羞明などの不快症状に深く関与していることが分かってきました。
ドライアイでは、涙液量の低下や涙液の質の変化、眼表面の微小な炎症によって角膜神経が過敏な状態になります。このときTRPV1が過剰に活性化されると、軽い乾燥刺激でも強い痛みや不快感として脳に伝えられてしまいます。アバレプトは、このTRPV1の働きを選択的に抑えることで、刺激があっても「過剰に痛みとして感じてしまう回路」を鎮める作用を発揮します。
作用機序のポイントは、「涙を直接増やす薬ではない」という点です。ヒアルロン酸やジクアホソル、レバミピドなどが涙液量や粘液層の改善を主目的とするのに対し、アバレプトは知覚神経レベルで症状を和らげる薬剤です。そのため、検査所見(角膜染色やBUT)が比較的軽度でも、強い眼の痛みや不快感を訴える患者さん、いわゆる「痛み優位型」「神経因性要素の強いドライアイ」に適した治療選択肢と考えられます。
効能・効果としては、「ドライアイに伴う眼不快感・眼痛の改善」が中心となります。特に、しみる感じ、ヒリヒリ感、焼けるような痛み、瞬目時の違和感といった感覚症状の軽減が期待されます。一方で、涙液量の著明な増加や角膜上皮障害の直接的な修復効果を主とする薬ではないため、病態に応じて既存の点眼治療と併用される場面が多くなると考えられます。
懸濁性点眼液であるため、使用時にはよく振ってから点眼する必要があります。臨床試験では、重篤な全身性副作用は少なく、局所刺激感も比較的軽度とされていますが、新規作用機序の薬剤であるため、今後の実臨床での使用経験の蓄積が重要です。
まとめると、アバレプト懸濁性点眼液は、「ドライアイ=涙不足」という従来の枠組みを一歩進め、眼表面の神経過敏という側面に正面からアプローチする初のTRPV1拮抗点眼薬です。ドライアイ診療において、「所見と症状が一致しない患者さん」を説明する際の理解を深め、治療の選択肢を広げる薬剤として位置づけられると考えられます。



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