がんに関連して起こる視力障害
― Cancer-Associated Retinopathy(CAR)と Melanoma-Associated Retinopathy(MAR) ―
「がんが目に影響することがある」と聞くと意外に思われるかもしれません。しかし、がんに対する免疫反応が誤って網膜を攻撃してしまうことで、視力障害を起こす病気が知られています。その代表が Cancer-Associated Retinopathy(CAR) と Melanoma-Associated Retinopathy(MAR) です。どちらも傍腫瘍性網膜症(paraneoplastic retinopathy)と呼ばれるグループに含まれます。
1.どんな症状が出るのか
CARの主な症状
CARでは、比較的急速に以下の症状が出現します。
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両眼性の視力低下
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視野が狭くなる
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明るい所から暗い所に移ったときに見えにくい(夜盲)
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光がまぶしく感じる
眼底検査では初期にはほとんど異常が見えないことも多く、「原因不明の視力低下」として受診されることがあります。
MARの主な症状
MARは悪性黒色腫(メラノーマ)に関連して起こります。
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暗い所で特に見えにくい
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光がちらつく
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視野の一部が欠ける
視力そのものは比較的保たれることもありますが、暗順応障害が強いのが特徴です。
2.なぜ起こるのか(病気の仕組み)
CARやMARでは、がん細胞に対して作られた抗体が、網膜の細胞と「形が似ている」ために誤って反応してしまうと考えられています。
この自己免疫反応により、網膜の光を感じる細胞や信号を伝える細胞が障害され、視覚症状が生じます。
3.診断で重要な検査所見
診断には複数の検査を組み合わせます。
① 視野検査
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CAR:全体的な感度低下や輪状暗点
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MAR:周辺視野の異常が目立つことが多い
② 網膜電図(ERG)
最も重要な検査です。
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CAR:杆体・錐体ともに反応が低下
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MAR:b波が低下し、a波は比較的保たれる(特徴的所見)
③ OCT(光干渉断層計)
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網膜外層(視細胞層)の菲薄化
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初期は正常に見えることもある
④ 抗網膜抗体検査
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抗リカバリン抗体(CARで有名)
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抗双極細胞抗体(MAR)
※ 陽性でなくても病気を否定はできません。
⑤ 全身検索
CARでは肺がん、乳がん、婦人科がんなどが後から見つかることもあり、眼の症状ががん発見のきっかけになる場合があります。
4.治療・対処法の基本
最も重要なのは
① 原因となるがんの治療
② 免疫反応を抑える治療
を並行して行うことです。
視機能が回復しないことも多いため、早期診断・早期治療が極めて重要です。
5.報告のある薬物治療(重要)
現時点で確立した治療法はありませんが、以下の治療が報告されています。
● ステロイド療法
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内服または点滴
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炎症・免疫反応を抑える目的
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早期であれば進行抑制効果が期待される
● 免疫抑制薬
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シクロスポリン
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アザチオプリン
ステロイド単独で不十分な場合に使用されます。
● 免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)
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自己抗体の作用を中和
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一部の症例で視機能安定化の報告あり
● 血漿交換療法
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血液中の有害な抗体を除去
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効果は症例により差があります
● 近年の報告
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リツキシマブなどの分子標的薬が試みられた報告もありますが、症例数は限られています。
6.患者さんへの大切なメッセージ
CARやMARはまれですが、「急に両眼が見えにくくなった」「検査では異常が少ないのに症状が強い」といった場合に疑われます。
また、がんの既往がある方、あるいはまだ診断されていない方でも起こり得ます。
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視覚症状を軽視しないこと
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眼科と内科・腫瘍科が連携すること
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早期受診が視機能温存の鍵
これらがとても重要です。
清澤眼科コメント
CAR・MARは「目の病気」であると同時に「全身疾患のサイン」でもあります。原因不明の視覚障害では、網膜電図を含めた精査と全身評価が不可欠です。患者さんと医療者が協力し、早期に対応することが何より大切だと考えています。今後の視力障碍進行に対応するための対策(ロービジョンケア)もそれを得意とする施設に紹介して早めに対応することが望ましいかもしれません。私の実感では、視野が網膜色素変性症に似ていますが、視野欠損の進行はそれよりも早い。そして眼底の所見はほとんど変化なしと見えることが多いと感じています。



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