神経眼科

[No.1371] 毛塚剛司先生が「難治性視神経炎と生物製剤」を解説しました

清澤のコメント:視神経炎は、⽬に⼊った光の信号を脳に伝える神経(視神経)が炎症で障害される病気です。⽚眼性と、両眼性があり、主な症状は視⼒低下のほか、視野が⽋けたり、全体が⽩っぽく霞んで⾒えたりします。炎症の原因は、多発性硬化症や視神経脊髄炎などの中枢性の⾃⼰免疫性の病気の 1 つとして⽣じるものや、感染症など様々ですが、原因がはっきりしないもの(特発性視神経炎)が最も多いとされています。(兵庫医科大の記載)

日本の眼科 94:1 号(2023)に東京医科大学臨床医学系眼科学分野と毛塚眼科医院に所属する毛塚剛司先生が「難治性視神経炎と生物製剤」を解説しています。神経眼科疾患を扱うものとしてこの基礎知識は必須なので紐解いてみます:(https://www.gankaikai.or.jp/members/journal/2023/941/__icsFiles/afieldfile/2023/01/16/ng094010032.pdf)最近の生物製剤の進歩を知れば知るほどに、これらの生物学製剤は数千万円単位と非常に高価であり、国民健康保険での支払いを適応外として否認されたりする恐れを考えれば、私たち市井の開業医が使うような製剤ではなさそうです。私たち神経眼科医は神経眼科学的な診察で、経過を観察すれば済むような軽症の視神経炎でなければ、視神経炎はそれが疑われた段階で早いうちに神経眼科を専門として難治性の視神経炎を治療し慣れた医師の静注する医療施設に患者を紹介するのが無難なようです。

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〔要  約〕
 特発性視神経炎は,通常,ステロイド大量点滴療法で軽快するが,ステロイド抵抗性や,ステロイド依存性に再発する症例が存在する。そのような難治性視神経炎に対して,急性期治療に大量免疫グロブリン製剤が認可され,再発寛解時には抗アクアポリン 4 抗体陽性例に限り,エクリズマブ,サトラリズマブ,イネビリズマブ,リツキシマブといった生物製剤が相次いで認可された。これらの製剤の開発が進んだのは,難治性視神経炎,特に視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の病態が解明されたためであり,免疫療法のあたらしい時代の到来を感じさせる。
は じ め に
 特発性視神経炎は古くからある疾患であるが,つい最近までステロイド大量点滴療法のみがその治療薬として知られていた。近年,難治性視神経炎である視神経脊髄炎(Devic 病,Neuromyelitis optica;NMO)の病態メカニズムが解明され,抗アクアポリン 4(AQP4)抗体を中心とした病態群であることが判明した。これにより多発性硬化症のような脱髄疾患として視神経炎を治療すべきか,アストロサイト障害を中心とした抗 AQP4 抗体関連疾患として治療すべきか選択することになった
Ⅰ.自己免疫疾患としての視神経炎
 特発性視神経炎は,多発性硬化症をはじめとした脱髄疾患の一型として今まで考えられてきた。脱髄疾患は自己抗原(清澤注:多発性硬化症で、この抗原が何かは解明されていない)に対して異常な免疫反応を起こして,健常な神経組織を攻撃して自己免疫病を引き起こす。視神経炎を引き起こす自己抗原はながらく判明していなかったが,最近,アストロサイト上に存在する AQP4 に対する抗体(抗 AQP4 抗体)が,ステロイド抵抗性である視神経炎の発症因子の 1 つと判明したまたステロイド依存性に視神経炎が再 発 す る 抗 Myelin-oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体も,視神経炎の発症に関連する因子として注目され始めている2),3)。抗 AQP4 抗体は,視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の病態成立の中心となり得ることもあり,脳神経内科領域において脊髄炎に対して精力的に解明がなされてきた。現在までに解明された NMOSD の病態として,抗 AQP4 抗体と補体と IL-6 が補体依存性のアストロサイト障害を引き起こして難治性視神経炎のトリガーとなることが知られている(図参照)4)。このNMOSD に対する分子免疫学的な病態解明により,いくつかの重要な分子標的を狙ってステロイドに比べて副作用の少ない治療薬,生物製剤が開発されてきた経緯がある。

Ⅱ.難治性視神経炎に対するあたらしい急性期治療
 今までステロイド抵抗性の視神経炎やステロイド依存性で再発しやすい視神経炎に対して,ステロイド点滴療法の一本槍であったが,あたらしい治療法が認可されてきたのはこれまで述べた通りである。
抗 AQP4 抗体や抗 MOG 抗体が難治性視神経炎のキーとなる因子であるならば,体内から除去してしまえば治療に直接的に結びつけることができる。このため,ステロイドに抵抗性の NMOSD では抗AQP4 抗体を除去するために血液浄化療法が推奨されてきた5)。血液浄化療法は生体への侵襲が大きく,脳神経内科や腎臓内科との連携が必須である。もっとも悩ましいのは,視神経炎のみの臨床所見では,血液浄化療法を導入しにくく,特にステロイド依存性の抗 MOG 抗体関連視神経炎では血液浄化療法は保険適応ではない。最近,大量免疫グロブリン療法がステロイド抵抗性視神経炎に対して有効である知見が得られ6),保険収載されるに至った。ただし,視神経炎の急性期の治療に用いる場合は,ステロイド剤による適切な治療によっても十分な効果の得られない患者を対象とすること,原則として,抗AQP4 抗体陽性の患者へ投与すること,抗 AQP4抗体陰性の患者は種々の病態を含むため,自己免疫性の病態が疑われ,他の治療で改善が認められない又は他の治療が困難な場合にのみ投与を検討することが明記されている7)。

Ⅲ.難治性視神経炎の再発寛解期に向けての生物製剤治療
  難治性視神経炎, 特に抗AQP4抗体陽性のNMOSD において,種々の生物製剤が保険収載されている。現在までに NMOSD の病態形成として重要な補体(C5),IL-6,抗体産生に関与する B 細胞,特に形質細胞に作用する分子標的薬が認可されている。

1.補体を標的とした生物製剤「エクリズマブ」
 エクリズマブは,終末補体活性化を阻害するのに中心的な役割を担っており,現在まで,発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH),非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS),難治性全身型重症筋無力症に対して認可されている8)。これに加えて,抗 AQP4 抗体陽性症例における NMOSD でも 2019 年 11 月に保
険収載されている8)。

2.IL-6 を標的とした「サトラリズマブ」
 サトラリズマブ(遺伝子組換え)は,pH 依存的結合性ヒト化抗 IL-6 レセプターモノクローナル抗
であり,血中滞留性を向上させるよう,抗体工学技術を用いてアミノ酸配列を改変することにより創製したヒト化 IgG2 モノクローナル抗体である10)。

3.B 細胞および形質細胞上の CD19 を標的とした「イネビリズマブ」
 イネビリズマブは,ヒト化脱フコシル化免疫グロブリン G1 カッパ(IgG1 κ)モノクローナル抗体であり,B 細胞特異的表面抗原である CD19 に結合し,形質芽細胞や一部の形質細胞を含む B 細胞を減少させる12)。さらにイネビリズマブは,抗体依存性細胞傷害(ADCC)機序を介した NK 細胞により,B細胞の減少を増強する12)。

4.B 細胞上の CD20 を標的とした「リツキシマブ」
 リツキシマブは,幹細胞や形質細胞以外の B細胞上に発現するタンパク質である CD20 抗原に特異的に結合する抗 CD20 モノクローナル抗体で,標的となる B 細胞をヒトの体内に備わった免疫系を用いて攻撃し,細胞を傷害する14)。

Ⅳ.抗 AQP4 抗体陽性視神経炎には,どの生物製剤を用いたらよいのか?
 これだけいろいろな生物製剤があると,その選択についても悩むところである。抗AQP4 抗体陽性視神経炎に対する再発寛解時の生物製剤の導入基準を決めている。特に,「脳神経内科医との連携がとれている」ことが重要なポイントである。一方,これらの生物製剤の中で最も強力なのは,2 週間毎の静脈内投与であるエクリズマブである16)。簡便で使い勝手が良いのは,1ヵ月に 1 回に皮下注射を行うサトラリズマブである。

表 2 抗 AQP4 抗体陽性視神経炎に対する再発寛解時の生物製剤の導入基準
• ステロイド抵抗性.
•  維持療法中に,最低年に 1 回,視神経炎を再発している.
•「視神経脊髄炎」で難病指定を受けている.
• 脳神経内科医との連携がとれている.

おわりに
 これまで,難治性視神経炎に対する種々の生物製剤を紹介してきたが,まだ認可されたばかりで未知数である事柄も多い。例えば,1)症例毎に治療選択をしなければならない,2)視神経炎の活動性のマーカーが不明なので減量中止しにくい,3)生物製剤を用いながらの再発例への対処が不明,4)コロナ禍で追加のワクチン接種を迫られたために,免疫抑制をきたしてしまう生物製剤を患者に導入しにくくなるなどの弊害が起きる可能性がある。

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神経眼科医清澤の最終コメント:本文中に注記したように、多発性硬化症の原因抗原や炎症機序がいまだに明らかにされていないのは奇妙です。本文を読むとこれらの生物製剤は非常に高価であり、保険での支払いを適応外として否認されたりする恐れを考えれば、私たち市井の開業医が使うような製剤ではなさそうです。私たち神経眼科医は神経眼科学的な診察で、経過を観察すれば済むような軽症の視神経炎でなければ、視神経炎はそれが歌川得た段階で早いうちに神経眼科を専門として難治性の視神経炎を治療し慣れた医師の静注する医療施設に患者を紹介するのが無難なようです。

 

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