「健康で長生きしたい」と願うなら、理にかなった生活習慣を身に付ける必要がある。ならば、若い頃と体が変化した60歳とでは生活習慣や治療法を見直すことは当然だ。では、目についてはどのようなことに気をつければよいのか? 自由が丘清澤眼科(東京・目黒区)の清澤源弘院長に聞いた。
「米国検眼協会(オプトメトリック協会)は、60歳以上のすべての人に毎年の目の検査を推奨しています。多くの眼疾患には初期症状がなく、痛みを伴わずに進行し、気づかない可能性があるからです。しかも、60歳直後の数年間で、視力を失う可能性のある多くの眼疾患を発症する可能性があるのです」
ここで言う眼疾患とは、加齢黄斑変性症、白内障、糖尿病性網膜症、ドライアイ、緑内障、網膜剥離などを指す。
「このため、60歳以降の車の運転は自分が考えている以上に難しくなってきます。加齢に伴う視力の変化や目の病気は、症状に気づく前に、運転能力に悪影響を与える可能性があるからです」
たとえば、道路標識がハッキリ見えない、車のダッシュボードやカーナビなどを間近で見るのが困難、距離と速度を判断するのが難しい、色覚の変化、暗い場所や夜間の状況が見えづらい、ヘッドライトのまぶしさに適応しづらい、視野の喪失を感じるなど。これらに心当たりがある人はすぐに眼科で検診を受けることだ。
「残念ながら60歳以上の人の中には、通常の加齢に伴う視力の変化を超えて視力を失う人がいるのです」
実際、厚生省の「平成28年 生活のしづらさなどに関する調査」によると、身体障害者手帳該当者のうち視覚障害者数は31.2万人。50~59歳で2.9万人、60~64歳で2.5万人、65~69歳で4万人、70歳以上で17.5万人だった。
一方、身体障害者手帳を所持しない視覚障害者は100万人以上いるといわれている。
「加齢によって徐々に視力が衰えて、これまでできていたことができなくなったとしても“老いとはそういうもの”と勝手にその状況を納得してしまい、自身が視覚障害者に該当する状況であることを自覚することが難しい人もいるのです」
その結果、長年通い慣れた駅のホームで転落したり、接触事故を起こすケースがあるという。
2010~2014年度の5年間に発生した駅ホームからの転落事故と車両接触事故の合計は1万7251件。うち387件が視覚障害者による事故だったという。
「糖尿病の人は罹患10年目くらいから糖尿病性網膜症などの目の疾患が自覚できるレベルにまで進むことが知られています。いつまでも目は見えるのは当たり前などと考えてはいけません。60歳を過ぎたら見えにくくなるのが当たり前。少しでも長く目の健康を保つにはどうしたらいいのかを真剣に考えるべきです」
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