老視用角膜インレーを外した後の角膜の変化とは
〜白内障手術など次の治療を考える前に知っておきたいこと〜
清澤のコメント:老視の改善のために角膜インレーというものを角膜内に挿入するという手術がなされたことがありました。それを外さねばならぬ場合の注意が述べられています。一般的に、新しい手術にはあまり飛びつかないほうがよさそうというのが私の印象です。今回の報告は、数は少ないながらも実際の症例に基づいており、臨床現場での判断に役立つ情報です。特に白内障手術の前には、角膜インレーの有無や抜去歴を確認し、術後の屈折変化を予測することが大切です。
患者さんにとっても、「インレーを外せば元通りになる」というわけではなく、混濁は残ることがあるという事実を理解していただく必要があります。
背景
「老視用角膜インレー」は、加齢とともに近くが見えにくくなる老眼(老視)を改善するために、角膜の中に埋め込む小さなリング状の医療デバイスです。
代表的なものに KAMRA®(カムラ、AcuFocus社)があり、直径3.8mm、中央の穴は1.6mm、厚さはわずか6マイクロメートル。ピンホール効果で焦点の合う範囲を広げ、遠くも近くも見やすくする設計です。
しかし、この方法は羞明(まぶしさ)、夜間視力低下、角膜混濁などの合併症が報告され、現在はほとんど使われていません。老視用角膜インレーを入れていた世代は、今後白内障手術の適応年齢に入り、一般眼科でも遭遇する機会が増えると考えられます。
特に問題となるのが角膜混濁です。中央に混濁がある場合は視力低下を避けるためにインレーを外しますが、中央に混濁がない場合に抜去すべきかどうか、また抜去後に角膜がどう変化するかは、これまであまり報告がありませんでした。
目的
本研究は、老視用角膜インレーを抜去した後に角膜や視力がどう変化するかを調べ、白内障手術などの次の治療を行う際の判断材料を得ることを目的としました。
具体的には、抜去前後の
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角膜混濁
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角膜の屈折力(カーブの強さ)
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等価球面度数(近視・遠視の程度)
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視力
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不正乱視(角膜のゆがみ)
を比較しました。
方法
対象は、2017〜2023年に京都府立医科大学附属病院またはバプテスト眼科クリニックで老視用角膜インレー抜去手術を受けた5例5眼(平均年齢64.6歳、男性1人・女性4人)。
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角膜混濁は細隙灯顕微鏡写真と前眼部OCTで評価
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角膜屈折力はケラトメータで測定
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屈折度数・不正乱視は診療記録から取得
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術前と術後1か月、3か月を比較し、統計解析は対応のあるt検定で実施
結果
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角膜混濁:全例で術後も残存。術後3か月まで大きな変化はなし
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角膜屈折力:術後3か月で有意に減少(p=0.037)
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屈折度数:術後1か月・3か月で近視化が進行(p=0.005)
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不正乱視:有意な変化なし
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視力:詳細な改善傾向は記載なし
結論
老視用角膜インレーによる角膜混濁は、抜去後も長く残る可能性があります。また、抜去によって角膜のカーブや屈折度数が変わり、近視化することがあります。
白内障手術など次の手術を計画する際には、抜去後も角膜形状や度数が変わることを想定し、適切なタイミングと術式を選ぶ必要があることが示されました。
出典:
堤 剛己, 稗田 牧, 北澤 耕司, 外園 千恵, 木下 茂.
老視用角膜インレー抜去後の角膜所見.
日眼会誌 129巻8号: 724-730, 2025.
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