非専門医が知っておきたい片頭痛診療の最前線( 柴田護)
清澤のコメント:片頭痛患者の約70%は受診せず,未治療であったり市販の鎮痛薬で対処したりしている。片頭痛症例の4分の1~3分の1では頭痛発作に先行,あるいは随伴する一過性(通常は5~60分間)の神経症候が認められ,前兆(アウラ)と呼ばれる。前兆としては閃輝暗点が最も多い。発作予防治療は,片頭痛発作が月に2回以上,あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上ある患者で検討する。具体的には,ロメリジン,プロプラノロール,バルプロ酸などの薬物療法が中心である。直近3か月の片頭痛日数が1か月に平均4日以上であればCGRP関連抗体薬の使用を考慮してもよい。(1月31日号医学界新聞から抜粋。片頭痛が特集を抄出採録いたします。)
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柴田護2022.01.31 週刊医学界新聞:第3455号より抜粋
『頭痛の診療ガイドライン2021』(医学書院)発行によって,2021年はわが国の片頭痛診療にとって記念すべき年となった。進歩を実臨床で十分生かすには,受診率向上や非専門医―専門医間での連携が鍵となる。
FAQ 1:非専門医が片頭痛診療に取り組むことで,どのような貢献が期待されるか?
片頭痛は日常生活に支障を来すレベルの頭痛発作を繰り返す慢性神経疾患。有病率は8.4%,若年層に好発する。片頭痛が原因で生じる欠勤や労働遂行能力低下によって,わが国だけで年間数千億円~数兆円規模の経済的損失が起きている。
片頭痛患者の約70%は受診せず,未治療であったり市販の鎮痛薬で対処したりしている。片頭痛への世間の理解度は低く,多くの患者がスティグマを感じ,活躍の機会が阻まれている。女性の有病率が男性の約3倍である。
Answer
非専門医を含む医療者が連携して片頭痛治療を行い社会全体の生産性を改善することが期待される。
FAQ 2
片頭痛はどのような基準に基づいて診断するのが望ましいか?
片頭痛の診断は,国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準に基づいて行う。片頭痛症例の4分の1~3分の1では頭痛発作に先行,あるいは随伴する一過性(通常は5~60分間)の神経症候が認められ,前兆(アウラ)と呼ばれる。前兆としては閃輝暗点が最も多いが,半身のしびれや失語を呈することもある。頭痛は,前兆開始から60分以内で生じる。
片頭痛症例の大部分を占める,前兆のない片頭痛の診断基準を表1に示す。診断には5回以上の発作の確認が必要(A項目)。頭痛発作の持続時間は,未治療の場合4~72時間と比較的長い(B項目)。C項目は頭痛の性状を問うものであるが,中等度以上(ベッドでの安静を望む程度)で体動によって頭痛が増悪すれば2項目を満たすので,拍動性や片側性がなくてもよい。D項目では悪心が高頻度に認められ,光過敏と音過敏が両方そろわないと②は満たされない。
表1 ICHD-3による「前兆のない片頭痛」の診断基準(文献4より作成)
片頭痛症状は年齢や慢性化に影響を受ける点に注意する必要がある。片頭痛を診断する際には,表2に挙げたような疾患の鑑別が重要である。
一部の患者では頭痛発作に先行して予兆を認める。予兆としては疲労感や肩こり,食欲変化など。また,片頭痛では月経,天候変化(低気圧や温度変化),睡眠不足・過多などが誘因となることも多い。片頭痛の診断はしばしば困難⇒専門医へ紹介。
表2 片頭痛と鑑別すべき主な疾患
Answer
片頭痛の診断はICHD-3の診断基準に基づいて行う。診断に迷う症例では積極的に専門医に紹介する。
FAQ 3
片頭痛の予防診療はどのように行うか。
発作予防治療は,片頭痛発作が月に2回以上,あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上ある患者で検討する。また,①急性期治療のみで片頭痛発作による日常生活の支障がある場合,②急性期治療薬が使用できない場合,③永続的な神経障害を来す恐れのある特殊な片頭痛には予防療法の実施が勧められる。
具体的には,ロメリジン,プロプラノロール,バルプロ酸などの薬物療法が中心である。また片頭痛の病態生理にはいまだ不明点が多いが,近年カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が重要な役割を果たすことが明らかにされ,抗CGRP抗体であるガルカネズマブにフレマネズマブ,抗CGRP受容体抗体エレヌマブなどのCGRP関連抗体薬が保険適用となっている。またアミトリプチリンとベラパミルに適応外使用が認められている(表3)。なお,バルプロ酸は妊娠可能年齢の患者には原則的に使用しない。
表3 わが国で使用可能な片頭痛予防薬
予防薬使用に当たっては,CGRP関連抗体薬以外の薬剤を低用量から使用し,十分な臨床効果が得られるまで増量し,2~3か月程度の期間をかけて効果を判定する。同時に睡眠不足や空腹など,発作の誘因回避のための生活指導も行う。それでも頭痛発作のコントロールが不良で生活支障度が高い場合,他の薬剤へ変更するか併用を行う。
特に,直近3か月の片頭痛日数が1か月に平均4日以上であればCGRP関連抗体薬の使用を考慮してもよい。CGRPは三叉神経終末や三叉神経節で放出され,三叉神経系の感作を誘導することによって片頭痛を引き起こすと考えられている。CGRP関連抗体薬は片頭痛の病態生理の理解に基づいて開発された画期的な予防療法である。抗体薬は半減期が長く,CGRPの作用を安定して阻害する点でも優れている。さらに原則的に中枢神経系内に移行しないので,従来の片頭痛予防薬に認められたような眠気やめまいなどの副作用は極めてまれである。CGRP関連抗体薬は,従来ドラッグリポジショニングによって支えられていた片頭痛の予防薬治療に大きなパラダイムシフトをもたらした。ただし現状では処方が専門医に限られる。従来薬で対応困難な患者に対しては,専門医に紹介しCGRP関連抗体薬の処方を検討する。また効果発現が速く安全性が高い一方,他剤に比較して高価である。
なお,片頭痛の予防には,呉茱萸湯(ごしゅゆとう)などの漢方薬やマグネシウム製剤も使用される。さらに薬物治療だけでなく認知行動療法の有用性も実証されているので,集学的なアプローチを試みるべきである。
Answer
従来薬で予防治療が困難な患者に対しても,CGRP関連抗体薬などの新薬の使用を含め,有効な治療手段が見つかる可能性があります。該当症例では積極的な専門医への紹介を検討しましょう。
もう一言
国民の約1割が症状を持ちながら大多数が受診しない片頭痛診療においては,かかりつけ医をはじめとする非専門医による積極的な患者指導が必要。
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