眼科医清澤のコメント:緑内障診療とOCT:赤木忠道氏が、日本の眼科:わかりやすい臨床講義の中で掲載されている眼科医向けの講義です。もちろん私も緑内障診療にOCTを頻繁に利用しています。私は、拡大したカラー眼底写真と視神経周囲のOCTをまず合わせて見て、視野が必要かどうかなどと次を考えるようにしています。このようにまとめられたものを読み返してみると、限られた画像を表面的に眺めているだけなのを反省します。
セグメンテーションなどの元データを意識した評価が今一つできていませんでした。他人に説明しようとすると、自分の理解も深まるので、論文の要点を書きだしてみました。市中の緑内障診療に携わる諸氏がもう一度この元原稿に戻ってみることをお勧めしたいです。一度の通読だけではなく、自分の使っているOCTでは、各項目が何というモードでとられているのかも機械製造販売会社のエージェントに問い合わせて、押さえ直しておきたいと思いました。(眼科医なら、この雑誌がなくても日本眼科医会のHPで容易に閲覧できます。)
ーーー要点の抄出ーーーー
緑内障診療とOCT:赤木忠道:日本の眼科 2022年6月号
はじめに: 緑内障診療に光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は必要不可欠な検査。OCT の有用性は緑内障の診断と進行判断にも有用。
緑内障では網膜神経節細胞(retinal ganglion cell: RGC)が選択的に障害される。RGCの軸索が存在する網膜神経線維層(retinal nerve fiber layer:RNFL)と RGC の細胞体が存在する網膜神経節細胞層(ganglion cell layer:GCL)の厚みを評価するのが,OCT の 基本的な利用法。
組織学的な検討から,視野異常が検出される緑内障眼では既に約 50%の RGC が喪失しているとされ,視野障害が重篤化する前に診断・進行を検出するのが重要。
Ⅰ.緑内障診療で有用な OCT 撮影モード:実際の撮影画像を確認することが重要。セグメンテーションが正しく行われているか。強度近視眼では撮影範囲が広くなること,神経の走行パターンも異なる。
以下に緑内障診療で用いられる主な撮影モード:
1、乳頭周囲網膜神経線維層解析と 2の黄斑部内層解析。少なくとも2種類の撮影モードで確認することを推奨。
1.乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)解析:cpRNFL 解析では視神経乳頭周囲をサークルスキャンし眼球全体の網膜神経線維層厚を測定(図 1)。耳側(Temple)から上側(Superior),鼻側(Nasal),下側(Inferior)から再度耳側までの RNFL厚をグラフ表示する TSNIT グラフが一般的。 正常眼は耳上側と耳下側の膨大部 を反映した2峰性。セクター毎にRNFL厚を表示するセクター解析は菲薄部の局在と程度を把握しやすいが,菲薄部が狭い場合は平均化すると捉 えにくいことがあるためグラフでも確認。
2.黄斑部内層解析:黄斑部画像上ではRNFLとGCLの2 層が選択的に菲薄化すること が緑内障の特徴。GCLと内網状層(inner plexiform layer:IPL)の境界線はやや不明瞭であり正確なセグメンテーションが難しいため,RNFL、GCL,IPLの3 層を合わせた網膜神経節細胞複合体(ganglion cell complex:GCC, GCL++ とも表記)や GCL と IPL の 2層を合わせた GCIPL(GCL+ とも表記される)などが解析に用いられる(図2)。 Temporal raphe サインが診断上有用な所見として知られる。耳側縫線部位が temporal rapheであり,この部位の内層網膜(GCC など)が上下非対称になる所見が temporal rapheサインである(図2)。将来の緑内障進行を強く疑うサイン。
3.乳頭解析:視神経乳頭の形状は個人差が大きいため,緑内障 の診断力では cpRNFL や黄斑部内層解析と比べると劣る。最近では,BMO-MRW(BMO minimum rim width) という測定方法が提唱されている。一部の機器でのみ使用可能。
4.高解像度縦スキャン:加算平均処理を行った高解像度縦スキャン。黄斑部を評価する方法(図3)。上下の 網膜内層厚の非対称性,局所的菲薄化に注意して定性的に診断。この方法は正常眼データベースに依存しない。長眼軸症例や若年症例にも適応可能。緑内障による変化はRNFLとGCLに限局するのに対し,網膜全体の菲薄化は近視の影響が強いと判断できる。また,内顆粒層を含めた広範囲の網膜内層の菲薄化であれば緑内障ではなく網膜動静脈閉塞などの網膜循環障害を考える必要があり,他疾患の除外にも威力を発揮する。
5.En face画像:網膜表層画像を en face 画像で評価する(図4)。RNFL の走行に沿った形で神経線維層欠損(nerve fiber layer defect:NFLD)を確認できることから視覚的に理解しやすい。強度近視眼の豹紋状眼底でもNFLDを検出しやすい。
6.その他:RNFLやGCLの菲薄部検出以外にもOCTの活用法がある。乳頭周囲脈絡網膜委縮(parapapillary atrophy:PPA)をOCT で撮影すると,β-zone(ブ ルッフ膜を伴うPPA)とγ-zone(ブルッフ膜を伴わないPPA)を分別可能。広いβ-zone PPA は緑内障進行の危険因子で重要である。OCTで篩状板を観察することも可能。緑内障眼で篩状板に部分的な欠損所見を認めること,篩状板の後方変位(後方湾曲)が強いほど緑内障進行しやすいこと,眼圧下降によって後方変位(後方湾曲)が改善しうる。PPAや篩状板をターゲットとする専用の解析ソフトは存在せず、明確な基準も存在しない。
Ⅱ.緑内障進行判定への活用:緑内障進行判定は視野障害悪化で判断。進行判定に用いられる代表的な方法論として,イベント解析とトレンド解析がある。イベント解析は最初の複数回をベースラインとし, 基準値を超える悪化を認めた場合に進行と判断する。トレンド解析は時間経過における視野検査を直線回帰させて,直線の傾きから進行速度を判定する。外れ値による影響を減らせる。Mean deviation (MD)を用いたMDスロープがよく用いられる。
最近では,OCTにおけるRNFLや GCC菲薄化進行を緑内障進行と判断することが一般的。OCTの厚みデータは通常,視野検査よりも検査間変動が小さい。OCTも撮影条件によって検査間でのバラつきは生じる。多くのOCT機器で,独自の進行評価プログラムが搭載されてい る(図5)。マップ上でベースラインとの解離を差分表示することで進行部位とその程度を評価するイベント解析的な使用が可能である。また,厚みをトレンドグラフとして示し,RNFL厚や黄斑部内層厚のスロープも算出することが可能。ただし,加齢でも RNFLやGCCの緩やかな菲薄化は生じる。異なるOCT 機種間では厚みデータに 互換性はない。OCTを新機種に変更した場合:以前のデータが使用できない。
おわりに:OCTは多くの情報を与えてくれるが,その情報を十分に活用できるかどうかは使い手に依存する部分も大きい。画像読影に慣れが必要なものや,解析に少々時間を要するものもある。
注:私、清澤も緑内障の素人ではないことの言い訳の共著文献:
1)Cardiac Hypertrophy May Be a Risk Factor for the Development and Severity of Glaucoma、2022 Mar 15;10(3):677. https://www.medifind.com/articles/publication/335065985
2)Visual Acuity in Glaucomatous Eyes Correlates Better with Visual Field Parameters than with OCT Parameters. Current eye research、April 29, 2021
https://www.medifind.com/articles/publication/258674251
3)Cerebral glucose metabolism in the striate cortex positively correlates with fractional anisotropy values of the optic radiation in patients with glaucoma. Clinical & experimental ophthalmology、 November 23, 2014
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