視力低下

[No.280] 宮崎大学医学部附属病院で”網膜色素変性に対する遺伝子治療” の医師主導治験が実施された:プレスリリースから

清澤のコメント:網膜色素変性は単一の遺伝子変化ではないことが明らかになっています(この記事の末尾参照)。その共通のステップについての遺伝子治療の治験が始まったということのようです。喜ばしいニュースだと思います。現代の眼科における先端的でオーソドックスな研究です。都内にもこのような疾患を研究している施設がいくつかあります。

(宮崎大学)医学部附属病院で”網膜色素変性に対する遺伝子治療” の医師主導治験が実施されました

  • 医学部附属病院で”網膜色素変性に対する遺伝子治療” の医師主導治験が実施されました

2022年01月27日 掲載

医学部附属病院において、網膜色素変性(以下、色変と略)に対する遺伝子治療の医師主導治験(治験調整医師:医学部医学科眼科学分野 池田 康博 教授)における被験者への投与が、令和4117日に実施されました。

色変は、網膜に存在する光を感じる細胞(視細胞)が徐々に失われていく遺伝性の病気で、約5千人に1人の頻度で見られ、失明に至る可能性もありますが、現状は有効な治療法がなく、厚生労働省から難病と指定されており、患者さんは失明の不安を抱えて日常生活を送っています。

今回の医師主導治験で安全性と有効性が確認され、治療薬としての開発に繋がれば、患者さんの失明防止に向けた大きな一歩になると考えられます。

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宮崎大学医学部附属病院における
網膜色素変性に対する遺伝子治療の医師主導治験実施について

■発表者名
池田 康博 (宮崎大学 医学部医学科感覚運動医学講座眼科学分野 教授)

■発表の背景
色変は、網膜に存在する光を感じる細胞(視細胞)が徐々に失われていく遺伝性の病気です。約5千人に1人の頻度で見られ、青年期より発症し、やがて失明に至る可能性があります。すでに80種類以上の遺伝子異常が原因として明らかになっていますが、現状は有効な治療法がなく、厚生労働省から難病と指定され、公費負担の対象となっています。
本医師主導治験では、この難病に対して遺伝子治療という新しい治療法を応用しました。神経栄養因子であるヒト色素上皮由来因子(hPEDF)の遺伝子を搭載したサル由来レンチウイルス(SIV)ベクター(SIV-hPEDF:開発コードDVC1-0401)を色変患者さんの網膜に注射し、神経栄養因子の視細胞保護作用により、視細胞の喪失を防ぎ、視力の悪化を防ぐというコンセプトになります。眼科における遺伝子治療の治験は、国内はもとよりアジアでは例がなく、本治験が初めての試みでした(2019年当時)。
本医師主導治験(「DVC1-0401網膜下投与による網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療の第I/IIa相医師主導治験」)は、日本医療研究機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業ステップ1(2015〜2017年度)ならびにステップ2(2018年度〜)の研究費により開発を進められており、またAMED 橋渡し研究戦略的推進プログラムにおいて革新的医療技術拠点に選定された九州大学の支援基盤を活用し、治験届を2019年1月に提出していました。2019年6月に、九州大学病院にて第1症例目となる被験者にDVC1-0401が投与されており、2020年7月に宮崎大学医学部附属病院が治験実施施設として追加登録されていました。

■発表内容
治験製品であるDVC1-0401の網膜下投与の安全性を検討すること、および視機能障害の進行抑制効果を評価することが、本医師主導治験の目的となります。プロトコールでは、3つのステージ(低用量、中用量、高用量)において各4名の被験者に治験製品が投与されますが、本被験者は第11症例目(高用量3症例目)で宮崎大学医学部附属病院では第1症例目となります。被験者は、治験製品投与後の状態が落ち着いたため、1月28日に退院する予定です。今後は外来にて、注意深く経過観察していく予定となっています。
色変は、現在有効な治療法がなく、患者さんは失明の不安を抱えて日常生活を送っています。今回の医師主導治験で安全性と有効性が確認され、治療薬としての開発に繋がれば、患者さんの失明防止に向けた大きな一歩になると考えています。また、治験製品であるDVC1-0401は株式会社IDファーマ(茨城県つくば市)が開発した国産ウイルスベクターで、本邦における保険医療分野に果たす役割は大きいと考えています。

■今後の展開
最終的には12名の被験者に治験製品を投与する予定で、あと1名の被験者への投与が終了すると、1年間の経過観察を経て、本医師主導治験は終了となります。次相(第IIb相)の治験を実施し、最終的には遺伝子治療薬として薬事承認を目指す予定となっています。

・プレスリリース 2022/1/27
https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20220127_01_press.pdf

◎私のブログにおける以前の関連記事:

https://www.kiyosawa.or.jp/retina/69007.html/

12792:日本網膜色素変性レジストリプロジェクトに登録されたデータの解析

清澤のコメント:「日本網膜色素変性レジストリプロジェクトに登録されたデータの解析」が日眼会誌に掲載されている。多くの原因遺伝子が知られているが、この報告によれば1817名中の定型RPが 1,563名と最も多い。遺伝形式は常染色体優性遺伝12.7%,常染色体劣性遺伝18.5%,伴性劣性遺伝1.7%であるが孤発型が64.3%と最も多い。定型RPの病因遺伝子診断率は44.3%で,EYS遺伝子異常が最も多かったということである。そのあたりを知って診療にあたるとよかろう。また、この研究に名を連ねている施設に紹介すると遺伝子解析がしてもらえるかもしれない。日本眼科学会雑誌 125: 425-430,2021。医師が論文別刷りを請求できる先は:別刷請求先〒889-1692 宮崎市清武町木原5200 宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野 池田康博、とされている。ーーー抄録内容の採録ーーーー日本網膜色素変性レジストリプロジェクトに登録されたデータの解析 池田 康博, 山本 修一, 村上 晶, 髙橋 政代, 川崎 良, 西口 康二, 坂本 泰二, 山下 英俊; 日本網膜色素変性レジストリプロジェクト 宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野ほか目 的:網膜色素変性(RP)は現時点で有効な治療法のない難病で,新規の治療法開発が最も切望されている疾患の一つである.RPの基礎研究・治療研究を推進するために立ち上げた,RPおよびその類縁疾患に特化した患者レジストリである日本網膜色素変性レジストリプロジェクト(Japan Retinitis Pigmentosa Registry Project:JRPRP)の現状と登録されたデータの集計結果を報告する.
対象と方法:2018年7月~2020年3月までにJRPRPに登録されたRP患者1,817名の患者背景を検討した.
結 果:JRPRPに参加している25施設中13施設から登録があった.性別は男性851名,女性966名.年齢は55.0±17.4歳(平均値±標準偏差).病型の内訳は定型RP 1,563名,錐体杆体ジストロフィ62名,無色素性RP 59名,中心型・傍中心型RP 37名,クリスタリン網膜症18名,Usher症候群15名,コロイデレミア14名,その他34名,不明15名であった.遺伝形式は常染色体優性遺伝12.7%,常染色体劣性遺伝18.5%,伴性劣性遺伝1.7%,孤発型64.3%,不明2.9%であった.定型RPの病因遺伝子診断率は44.3%で,EYS遺伝子異常が最も多かった.さらに,EYS遺伝子異常の患者はほかの常染色体劣性遺伝の患者より視力が良好な傾向がみられた.
結 論:JRPRPに登録された患者の遺伝形式の割合は既報と同程度であった.同様に,病因遺伝子としてはEYS遺伝子異常が最も多いことが分かった.さらなる患者データの集積により,本邦のRP患者の特徴が明らかとなることが予想される.(日眼会誌125:425-430,2021)

https://www.kiyosawa.or.jp/retina/53266.html/

2019年6月21日

10841:日本人における定型網膜色素変性の遺伝的特徴を解明;記事紹介 (再録)

 

清澤のコメント;先日も日本人における網膜色素変性の遺伝子型の分布を明らかにしたという発表に接していたが、上図の分布割合が明らかになった。網膜色素変性の研究も遺伝子の時代の様である。日眼では東京医療センターの角田らのグループでも遺伝子と表現型の対応を論じていたが、今回の東北大や順天堂大を含むグループでも同様のアプローチが進んでいる模様。

記事引用

日本人における定型網膜色素変性の遺伝的特徴を解明

~病因の把握により、治療法の開発・治療適応の選定に期待~

研究成果 公開日:2019.06.18

九州大学大学院医学研究院眼科学分野の秋山雅人講師(眼病態イメージング講座)および小柳俊人大学院生(医学系学府博士課程)、池田康博准教授、園田康平教授、理化学研究所生命科学研究センターの鎌谷洋一郎チームリーダー(研究当時)、桃沢幸秀チームリーダー、久保充明副センター長(研究当時)らの共同研究グループは、1,204名の定型網膜色素変性患者の遺伝子解析を行い、日本人患者で多く認められる原因遺伝子とその変異を明らかにしました。

網膜色素変性は、眼の光を感じる部位である網膜に変性をきたし、進行性の視覚障害を起こす病気です。日本の中途失明原因の第2位であり、約3万人の患者さんが日本にいると考えられています。遺伝子の異常が原因である遺伝性疾患で、80 種類以上の原因遺伝子が報告されています。現時点で確立された有効な治療法はありませんが、近年では、九州大学病院でも臨床研究を進めている遺伝子治療が検討されてきており、病気の進み方が原因遺伝子により異なることも知られていることから、原因遺伝子や変異を特定する重要性は高まっています。これまで欧米を中心に多数例での遺伝学的研究が進められてきましたが、日本人における検討は比較的小規模なものに限られていました。

今回、共同研究グループは本邦の6施設(九州大学、順天堂大学、東北大学、名古屋大学、浜松医科大学、およびわだゆうこ眼科クリニック)にて収集された日本人の定型網膜色素変性患者1,204名のDNAサンプルを用いて、83の原因遺伝子の翻訳領域(タンパクに翻訳される部分)の全塩基配列を対象に調査を行いました。理化学研究所生命医科学研究センターで解析を行い、本邦の定型網膜色素変性で特徴的な原因遺伝子と変異を明らかにすることに成功しました。

本研究により、日本人における当疾患の病因の把握や、将来的な治療法の開発やその適応の選定に役立つことが期待されます。また、本研究成果は、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究」が運用する、日本網膜色素変性レジストリプロジェクト(JRP-RP)で活用される予定です。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Journal of Medical Genetics』の掲載に先立ち、2019年6月18日(火)13時(日本時間)のオンライン版に掲載されました。

図:本研究で判明した定型網膜色素変性(RP)症例における原因遺伝子の内訳

本研究についての詳細は こちら

論文情報

Genetic characteristics of retinitis pigmentosa in 1204 Japanese patients ,Journal of Medical Genetics,

http://dx.doi.org/10.1136/jmedgenet-2018-105691

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