「視覚障害認定基準と視機能評価に関する展望」について:
日眼会誌第126巻第8号の巻頭言に「視覚障害認定基準と視機能評価に関する展望」が石子智士先生(旭川医科大学医工連携総研講座)によって書かれている。その要点を抜き書きしてみよう。私の身障者認定医としての姿勢は、御上の基準で適否を判断する。「開瞼不能は現行の基準には適合しない」と思考停止する。しかし、前回の改正のころ、加茂順子先生がエスターマン視野を強く推奨していたのや、若倉正登先生が眼球使用困難症を含めようとしたことがこの文からも窺えた。身障者判定が公正で平等であるべきであると考える人々がこの著者も含めて少なからず居ることは素晴らしいことだ。
―――記事の概要――
昭和24年の身体障害者福祉法以降,視覚障害による身体障害者の認定に関して改正が行われてきた。平成7年の改正では,視力障害の認定に両眼の視力の和という概念が導入された。視野障害に関しては,求心性視野狭窄で両眼の視野が10°以内を認定し,視野の視能率と損失率と呼ばれる概念が導入された.しかし,現場では,等級判定に関して混乱が続いた.視野障害の認定に関しては,自動視野計の等級別判定基準がなかった。
厚生労働省では,医療現場の実態に見合うよう,また障害程度に応じた等級判定がなされるよう,検討会で議論を重ねた。平成30年,身体障害者福祉法における視覚障害の範囲は変更せずに,視覚障害認定基準の改正が行われた.
その結果,視力障害の判定は,両眼の視力の和での認定から視力の良いほうまたは片眼ごとの視力での認定に改正された.視野障害の判定に関しては,輪状暗点・求心性視野狭窄の概念をなくし,中心暗点・傍中心暗点を視野障害として認定できるようになった.
大きな変更は,Goldmann視野計による評価だけでなく,自動視野計による評価の方法・基準が明確になった.自動視野計を用いる場合,周辺視野の評価には両眼開放Estermanテストを,中心視野の評価にはHumphrey視野計10-2プログラムと同等の測定点配置による評価を行うことと規定された.
これに伴い,視能率・損失率ではなく視野角度・視認点数での等級判定となった.この改正により,特に視野障害においては,2級の割合が有意に増加し,非該当となる申請者が有意に減少した.
大久保らの論文では,自動視野計による認定例は30.2%であったと報告されていて、その割合はさらに増えていくものと推測される.
平成30年の改正では,夜盲,羞明,片眼失明,眼球使用困難症については取り入れられなかった.また,Functional Vision Score(FVS)導入の検討がなされた.これは,米国のAmerican Medical Associationが推奨する評価法であり,視力と視野を統合してスコアで示すものである.
視覚障害の認定にあたっては,日常診療で用いられている視機能の評価,すなわち視力と視野が採用されている.視力に関しては,最高視力であり日常的にその視力が使えているわけではない.また、コントラスト感度が低下している視覚障害者においては視力値から推定される視機能を使えていない可能性がある.また、最小分離閾で評価された視力値が同じでも黄斑機能障害の程度によって日常生活での見え方は大きく異なる.
夜盲を有する患者では背景が暗くなると視機能が低下する。検査で得られた視野を常に使えているわけではない.日常生活では上方視野に比べ下方視野のほうが重要である.
「見える」ということをどのように評価するかは難しい.さらに視覚障害認定例においては,「どれだけ見えないのか」という評価が必要である。
文献
加茂 純子: 身体障害認定における視覚障害評価第2回国際基準でありQuality of Life (QOL)との相関があるFunctional Vision Score(FVS). 日本の眼科 82: 463-467, 2011.
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