脳のネットワークから見えてきたADHDの3つのタイプ ― MRI研究が示す新しい理解
ADHDは脳ネットワークの違いから大きく3タイプに分けられました。①感情調節が難しい重症混合型(内側前頭前野の変化)、②多動・衝動型(前帯状皮質の変化)、③不注意型(上前頭回の変化)です。MRI研究により、それぞれ異なる脳回路の特徴が示されました。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、子どもによくみられる神経発達障害の一つで、不注意や多動、衝動性といった症状を特徴とします。しかし実際の診療では、同じADHDと診断されても症状の現れ方は人によって大きく異なります。ある子どもは落ち着きがなく動き回ることが主な問題である一方、別の子どもはぼんやりして集中が続かないことが中心であるなど、非常に多様です。こうした違いは以前から知られていましたが、医学的には「なぜこのような違いが生じるのか」という点は十分には説明されていませんでした。
2026年に医学雑誌 JAMA Psychiatry に発表された研究では、このADHDの多様性を「脳のネットワーク構造」という観点から詳しく調べました。研究を主導したのは Nanfang Pan らの研究グループです。MRI画像を用いて脳の構造を解析し、ADHDの子どもたちに共通する特徴や、さらに細かなタイプ分けができるかどうかを検討しました。
研究の背景には、従来のADHD分類の限界があります。現在の診断基準では、不注意型、多動・衝動型、混合型などの分類が用いられていますが、これは主に行動症状のチェックリストに基づくものです。そのため、脳の働きや神経生物学的な違いを十分に反映していない可能性があります。もし脳の構造や機能に基づいた分類ができれば、ADHDの理解が深まり、将来的には個々の子どもに合わせた治療にも役立つと期待されています。
今回の研究では、合計1154人の子どもが解析対象となりました。内訳はADHDの子ども446人と、ADHDではない対照群708人です。平均年齢は約11歳でした。研究者たちはMRI画像から脳の各領域の構造的特徴を測定し、「形態計測的類似ネットワーク(Morphometric Similarity Network)」という方法で解析しました。これは、脳の各領域がどの程度似た構造を持つかをネットワークとして表したもので、いわば脳の「つながりの地図」のようなものです。
さらに研究では、脳ネットワークの中で特に重要な役割を持つ「ハブ」と呼ばれる領域に注目しました。都市に例えるなら、大きな交通の要所のような場所です。研究者たちは、ノード効率、参加係数、次数中心性という三つの指標を用いて、このハブ構造が通常の子どもとどの程度違うかを調べました。
その結果、ADHDの子どもでは脳ネットワークのハブ構造に特徴的な偏りがあることが分かりました。特に、意思決定や感情調整に関わる前頭葉の一部、なかでも眼窩前頭皮質周辺に顕著な違いが見られました。
さらにデータ解析を進めると、ADHDの子どもたちは大きく三つのグループに分けられることが分かりました。
第一は「感情調節障害を伴う混合型」で、感情のコントロールが難しく、症状が比較的重いタイプです。脳では内側前頭前野など広い範囲のネットワーク変化がみられました。
第二は「多動・衝動型」で、じっとしていられない、衝動的に行動してしまうといった特徴が強いタイプです。このグループでは前帯状皮質という領域のネットワークに特徴的な変化が見られました。
第三は「不注意型」で、集中が続かない、忘れ物が多いなどの症状が中心です。このタイプでは上前頭回という前頭葉の領域に変化がみられました。
興味深いことに、これら三つのタイプは臨床症状だけでなく、神経伝達物質の分布や脳機能ネットワークともそれぞれ異なる関連を示していました。つまり、単なる行動の違いではなく、脳の仕組みそのものが異なる可能性があるということです。
さらに研究者たちは、この結果が偶然ではないかを確かめるため、別の独立したデータセットでも検証を行いました。こちらにはADHDの子ども554人が含まれていましたが、同様に三つのタイプが再現され、結果の信頼性が確認されました。
この研究の結論は、ADHDは単一の病気というよりも、複数の神経生物学的タイプを含む「異質な症候群」である可能性が高いというものです。脳ネットワークの特徴を用いることで、その違いをより客観的に分類できる可能性が示されました。
将来的には、このような脳画像に基づく分類が診療に応用されるかもしれません。例えば、どのタイプのADHDかによって、薬物療法や心理的支援の方法をより個別化できる可能性があります。まだ研究段階ではありますが、ADHDの理解を大きく進める重要な成果といえるでしょう。
出典
JAMA Psychiatry
Pan N, Long Y, Qin K, et al.
Mapping ADHD Heterogeneity via Topological Deviations in Morphometric Similarity Networks.
Published online February 25, 2026.
doi:10.1001/jamapsychiatry.2026.0001



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