日本人の失明原因の上位を占める疾患を順に取り上げてきた。その中で、近年2位または3位を占めるのが「網膜色素変性症」だ。難病とされ、その患者数(2012年度医療費受給者証保持者数)は2万7158人とされている。
この病気は、それ以外の失明原因疾患とは異なり、家族性、遺伝性に発症するという特徴がある。発症に関連する遺伝子も国内外で大規模に調査され、新たな知見が得られている。「自由が丘清澤眼科」(東京・目黒区)の清澤源弘院長に聞いた。
「網膜色素変性症は、遺伝子変異が原因で眼底にある網膜の視細胞および色素上皮細胞と呼ばれる細胞層が広範に変性する病気です。初期には夜盲と視野狭窄を自覚します。徐々に進行するのが一般的です。老年に至り両眼が矯正視力約0.1以下の社会的失明となる例もありますが、生涯良好な視力を保てる例もあり、進行には個人差があります」
発病のメカニズムは不明だが、遺伝子変異が原因だとされ、国内でも遺伝子の検索調査が行われた。驚くことに同じような症状を示す患者でも異なった種類の遺伝子変異が多数見つかっている。
「また、共通の遺伝子変化を持っていても、その表現型が違う場合があることもわかってきました。遺伝子の変異で、網膜の視細胞および色素上皮細胞が広範に変性死滅して網膜に色素が沈着します」
初期には、暗いところで見えない夜盲、視野の中心部は見えるが周辺部が見えなくなる視野狭窄、さらに病状が進むと視界の中心部も見えにくくなって視力が低下する。また、羞明(または明るいところで見にくいという昼盲)もある。後期には色覚異常や光視症、羞明などが強まるという。
「治療法は、残念ですが現時点で確実なものはありません。診療の現場では、網膜で光を感じる作用に必要な視物質の前駆体であるアダプチノールという薬剤の投与が行われます。この薬はマリーゴールドの花から抽出されます。ほかに、まぶしさを軽減させたり網膜保護のために遮光眼鏡も有効です。また、本症に合併する白内障や黄斑浮腫などによる視力低下に対しては、それぞれの治療法が行われます」
網膜色素変性症はすべての例が両眼性進行性で、早いものでは40代に社会的失明状態になる。
「ただし、光も感じない医学的失明に至る割合は高くありません。60代でも中心に視野が残って視力が良好な例もありますが、視野狭窄のために歩行など『視野を必要とする動作』が困難となって、生活に支障を来すケースも多いとされています」
視野が狭く、暗いところでは歩けないと感じたら疑うべき病気だ。
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