タリウム 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

特徴

単体は常温では銀白色の柔らかい金属として存在し、αタリウムが最安定である。水と反応して強塩基の水酸化タリウムを作り、体内に入るとカリウムイオンと置き換わることで毒性を示す。

主な用途

殺鼠剤
化合物が利用される。農薬としては、2015年12月14日失効。
工業用試薬、放射性医薬品(201Tl)、シンチレータ、光学

かつての用途

第二次世界大戦以前には、顔面の脱毛クリームとして販売されていたが、製造業者や使用者のタリウム中毒が多発したため、現在ではタリウムを使用した脱毛剤は販売されていない。

毒性

皮膚、気道からも良く吸収される。毒性は、評価を行った機関により様々な数値が存在している

  • 単体タリウム
    • ヒトの中毒量は、最小中毒量 5714 µg/kg(男性)
  • 酢酸タリウム
    • ヒト致死量は、最小致死量 12 mg/kg

硫酸タリウム、酢酸タリウム及び硝酸タリウムは毒物及び劇物取締法で劇物に指定されている。

中毒

特徴的な症状は脱毛で、摂取後数日で現れる。また、外見的な異常として皮膚炎、脱毛、神経障害(失明、下半身不随など)、爪の異常を起こす

タリウムは組織細胞内でカリウムと置き換わり細胞膜を脱分極させる(細胞毒として作用する)ほか、細胞骨格を構成するタンパク質であるケラチンのメルカプト基架橋結合を遮断、タンパク合成を阻害することで毒性を表している

  • 主な症状
循環器系
頻脈と血圧上昇または低下、不整脈、徐脈、心電図異常(T波異常)
呼吸器系
死因 – 呼吸不全、急性呼吸促迫症候群 (ARDS)、急性肺傷害が摂取後24-72時間遅延して発現することがある、胸痛、無呼吸
神経系
知覚異常、筋痛症、末梢の灼熱感、激痛を伴う下肢の知覚性神経障害、筋力低下、脳神経麻痺、痙攣、せん妄、昏睡
消化器系
大量摂取の場合は急性症状として、一過性の悪心、嘔吐、下痢。少量では24-48時間程度遅れて症状が現れる。胃炎、十二指腸炎、麻痺性イレウス
肝症状
肝機能障害
泌尿器系
蛋白尿、円柱尿、乏尿、血尿、クレアチニンクリアランスの減少、血中尿素窒素の上昇、尿の緑色への着色
ほか
低カリウム血症、日光過敏症

中毒の診断

確定診断は尿への排泄量を測定することで行われる。

24時間尿中のタリウム濃度
  • 正常 – 5 ng/mL以下(原子吸光分析による)
全血血中濃度
  • 正常値 – 2 µg/L以下
  • 中毒濃度 – 100 µg/L以上
    • 200 µg/L以上

中毒の治療

殺鼠剤の誤飲などの事故でタリウムを摂取した場合は、胃洗浄、活性炭投与、人工透析、血漿交換、排出を促進する利尿などの対症療法が基本であり、体内除去剤として放射性セシウム体内除去剤としても利用されるラディオガルダーゼという商品名のプルシアンブルー(紺青、ヘキサシアニド鉄(II)酸鉄(III)水和物)を使用する。

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