眼瞼痙攣友の会(2024.7.21日曜ネットで開催予定)に寄せられた質問と清澤の回答
Q1: 眼球使用困難:緑内障の早期発見をしたいが、目に光を当てると激痛や嘔吐の症状が出る。どうしたらよいでしょうか?
A1: もし本当に眼球使用困難症がある場合、緑内障の診断は難しいかもしれません。緑内障のスクリーニングには、OCT(光干渉断層計)を使用して網膜神経線維層欠損を見る方法が有効です。この検査は数秒で完了するため、ハンフリー視野測定(約5分かかる)よりも簡単かもしれません。
Q2: 眼球使用困難:光が眩しいというタイプの人は白内障の手術はしないほうがよいでしょうか?
A2: 本当に眼球使用困難症がある場合、白内障手術を推奨する必要はないかもしれません。白内障手術は視力が低下している場合に行うものです。手術前に視力低下や眩しさの原因をしっかりと確認することが重要です。羞明(まぶしさ)が眼瞼痙攣やドライアイによるものであれば、白内障手術後にボトックスや涙点プラグ挿入など、原疾患の治療を行う必要があります。
Q3: 瞼の開閉に問題がある方より、目の痛みやしみる等の感覚異常が強い方とお話がしたいです。
A3: この質問は、眼瞼痙攣には運動症状、感覚(過敏)症状、そして精神(鬱)症状があるという知識を持った方からのものだと見受けられます。最近の医学界では、このような痛みや羞明を精神的な痛みではなく、脳の構造変化による「Nociplastic Pain」(痛覚変調性疼痛)と呼ぶ意見があります。この痛みに対しては、いくつかの薬剤が有効とされています。例えば、以下のような薬剤です:
- 三環系抗うつ薬(TCA):アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン、トリミプラミン、ノルトリプチリンなど
- セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI):トレドミン(ミルナシプラン)、サインバルタ(デュロキセチン)、イフェクサー(ベンラファキシン)
- ガバペンチノイド:ガバペンチン、ガバペンチンエナカルビル、プレガバリン、ミロガバリン
- その他の膜安定剤
ただし、これらの薬を処方すればすぐに痛みが止まるというわけではありません。
Q4: この病気になってから5〜6年経ちました。最近、病気が進んだ気がします。これ以上悪くならないか心配です。
A4: ジストニアとしての眼瞼痙攣には、①症状が軽減する場合、②そのまま止まる場合、③症状が重症化する場合があります。その変化を現在の症状や検査結果から予知できる方法は今のところありません。ボトックス投与やその他の方法を施しながら最善の治療を行いましょう。目と心の健康相談室や臨床心理カウンセリングなども役に立つでしょう。
Q5: ボトックスについてお聞きしたいです。量・打つ箇所等
A5: 眼瞼痙攣に対するボトックスの注射箇所は、両眼の周りに6か所(計12か所)、眉間と眉の上縁(計4か所)、鼻周囲(必要に応じて3か所)、頬や口角には最少量で打ちます。総量を50国際単位以下にし、重症度に応じてこれを各部位に分けると、各部位が2.5単位(1から4単位)程度になります。
Q6: 神経系統の外科的手術について、受けたことのある方、及び、情報をお持ちの方のお話を聞かせてもらいたいです。
A6: 脳定位手術についてお話しします。良性原発性眼瞼痙攣で、薬物療法が効果がない場合、以下の手術が検討されることがあります。
- 眼瞼皮膚切除術
- 眼輪筋切除術(眼輪筋を一部切除する手術)
- 前頭筋吊上げ術(frontal sling/suspension:上眼瞼挙筋を強める手術)
- ミュラー筋縫縮術(上眼瞼挙筋の裏に沿うミュラー筋を強める手術)
これらの選択肢より先に脳定位手術があります。以下に、本態性眼瞼痙攣のための深部脳刺激療法(DBS)についてやや詳しく説明します。
深部脳刺激療法(DBS)とは? 深部脳刺激療法は、脳の特定の領域に電極を埋め込む手術です。これらの電極は胸に埋め込まれたペースメーカーのような装置に接続されており、異常な脳活動を調整するために電気刺激を送ります。
本態性眼瞼痙攣に対するDBSの仕組み:
- ターゲット領域: 本態性眼瞼痙攣の場合、最も一般的にターゲットとされるのは、淡蒼球内節(GPi)と視床下核(STN)です。これらは運動制御に関与する基底核の一部です。
- 手術の手順:
- 術前評価: 患者は痙攣の原因となる正確な脳領域を特定するために、詳細な神経学的および画像評価を受けます。
- 手術: 通常、局所麻酔下で行われ、患者がフィードバックを提供できるようにします。頭蓋骨に小さな穴を開け、ターゲット脳領域に慎重に電極を配置します。高度な画像技術と術中の神経生理学的テストにより、正確な配置が確保されます。
- パルス発生器の埋め込み: 電極が配置された後、それらは胸の皮膚下に埋め込まれたパルス発生器に接続されます。
- 術後の調整: 手術後、数回のフォローアップ訪問でデバイスの設定を微調整し、症状のコントロールを最適化しながら副作用を最小限に抑えます。
本態性眼瞼痙攣に対するDBSの利点:
- 症状の緩和: DBSはまぶたの痙攣の頻度と重症度を大幅に減少させ、患者の生活の質を向上させます。
- 調整可能かつ可逆的: 刺激設定は追加の手術なしで調整可能であり、必要に応じてシステムをオフにしたり取り除いたりすることができます。
リスクと考慮点:
- 手術のリスク: どの脳手術と同様に、DBSには感染、出血、麻酔に対する悪反応などのリスクがあります。
- デバイス関連のリスク: ハードウェアの故障や移動、デバイス上の皮膚の損傷、刺激に伴う副作用などの可能性があります。
- 症状の管理: DBSは眼瞼痙攣を治癒するものではなく、効果的に症状を管理するためのものです。患者は依然としてボツリヌス毒素注射などの補助療法を必要とすることがあります。
結論: 深部脳刺激療法は、他の治療法に反応しない本態性眼瞼痙攣の患者にとって有望な治療法です。正確な外科技術と継続的な管理が最適な結果を確保します。もしDBSを検討している場合、運動障害の専門医と相談して、潜在的な利点とリスクを十分に評価することが重要です。
Q7: 瞼が最近下がってきてるので手術をした方がいいのかメリットデメリットで悩んでます。
A7: ボトックスを長期に使用することで上眼瞼挙筋が緩んで眼瞼下垂を示す患者さんがいます。瞼板が下がっている場合には挙筋短縮術が有効ですが、瞼を上げすぎると眼表面が空気に触れる時間が長くなり、眼痛の原因となることがあります。眼瞼痙攣の下垂手術に慣れた医師に相談することをお勧めします。また、瞼板の位置は下がっていないが上の皮膚が緩んで視線を遮る場合には、眉下切開で皮膚を切り取り、皮膚弛緩を改善させることもあります。
Q8: 現在、リボトリールの効果からか痙攣がごく少なくなりました。代わりに片側顔面痙攣側の目が毎日痛くて、知らぬ間に目を閉じていることが多いのです。緑内障の目薬を毎日両目にさしていますが、それと関係があるでしょうか?
A8: 若倉先生はむしろアーテンを処方されることが多いようですが、私はボトックスだけで十分な効果が得られない患者さんに限って、内服薬としてリボトリールを一日1錠を上限に処方することがあります。それ自体が眼痛に関連するとは考えにくいです。緑内障点眼薬との関連も症例によるでしょう。ドライアイがある場合には涙点プラグで涙を補う適応があるかもしれません。
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