神経眼科

[No.3072] 痛覚変調性疼痛にも有効であるとされるノイロトロピンの眼科での使用について

私は神経感作性疼痛にも有効であるとされるノイロトロピンについて、眼周囲の慢性疼痛を持つ患者さんに対して、通常の鎮痛剤ばかりでなく、強力なリリカ(プレガバリン)も効果を示さなかった場合の例外的な投薬として検討しています。本稿では、その対象となる疼痛の種類、作用機序、使用量、適応、そして禁忌や注意点を整理してご説明します。


ノイロトロピン(Neurotropin®)の概要

ノイロトロピンは、ウサギにスキルス抗原を皮下注射して得られる抽出物を主成分とした薬剤で、神経痛や慢性疼痛の治療に広く用いられています。特筆すべき点として、神経感作性疼痛アロディニア(本来痛みを感じない刺激に対する痛み)にも有効であることが挙げられます。さらに、非オピオイド性であり、耐性や依存性が生じにくい点も大きな利点です。


対象となる疼痛の種類

ノイロトロピンが効果を発揮するとされる疼痛は以下の通りです:

  1. 神経痛

    • 三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、坐骨神経痛など。
  2. 慢性疼痛

    • 腰痛症、肩関節周囲炎、変形性関節症などの骨関節疾患に伴う疼痛。
  3. 神経感作性疼痛

    • 眼周囲や顔面の慢性疼痛、アロディニア。
  4. 術後痛や外傷後疼痛

    • 手術後や外傷後に神経痛様の症状が現れる場合。

眼周囲の慢性疼痛においては、特に三叉神経第二枝および第三枝領域の感作性疼痛が問題となることが多く、この領域における適応が期待されています。


作用機序

ノイロトロピンの作用機序は完全には解明されていませんが、以下のメカニズムが示唆されています:

  1. 痛覚伝達経路の抑制

    • 脊髄後角の痛覚伝達神経における痛みの信号伝達を抑制します。
    • 非ノシセプティブ感覚を増強し、痛覚過敏を改善します。
  2. 抗炎症作用

    • 内因性の抗炎症メカニズムを誘導し、神経炎症を抑制します。
  3. 神経成長因子(NGF)の調節

    • 神経感作の改善に寄与します。
  4. βエンドルフィン系の活性化

    • 内因性鎮痛機構を活性化し、疼痛を軽減します。

これらの作用により、神経痛や神経感作性疼痛の症状を改善すると考えられています。


使用量と投与方法

通常成人の投与量は以下の通りです:

  • 経口剤(ノイロトロピン錠4単位)

    • 1日2錠(8単位)を2回に分けて服用します。
    • 症状に応じて適宜増減が可能です。
  • 注射剤(ノイロトロピン注射液3.6単位)

    • 1日1アンプル(3.6単位)を皮下または筋肉注射します。
    • 必要に応じて増量可能ですが、通常は継続的な使用を控えます。

長期的な効果を得るには、内服薬を基本とし、急性の痛みには注射剤を用いる場合があります。


適応と注意点

適応

  • 神経痛
  • アロディニア
  • 慢性疼痛症候群(CPS)

禁忌および注意点

  1. 禁忌

    • 成分に対する過敏症の既往がある患者。
  2. 注意が必要な患者

    • 腎機能障害がある患者(薬物の排泄に影響を与える可能性があるため)。
    • 妊婦・授乳婦(安全性が確立していない)。
  3. 併用注意

    • 他の中枢神経系作用薬(鎮静薬、抗うつ薬など)との併用では過度の鎮静や眠気に注意が必要です。
  4. 副作用

    • 主な副作用は皮膚発疹、掻痒感、消化器症状(腹部不快感や下痢)ですが、重篤な副作用は少ないとされています。

眼周囲疼痛における使用のポイント

眼科領域では、慢性疼痛の原因が明確でないケースも多く、神経感作や心理的要因が絡んでいる場合があります。ノイロトロピンは非依存性であり長期間使用しやすい点から、以下の患者に適しています:

  • 慢性眼周囲疼痛で標準的治療に反応しない場合。
  • 三叉神経痛や術後の顔面部疼痛。

慎重に適応を検討することで、患者のQOL向上に貢献できる可能性があります。

◎痛覚変調性性疼痛:

痛覚変調性疼痛とは

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