神経眼科

[No.275] 虚血性視神経症 Ischemic optic neuropathy (ION)とは

虚血性視神経症 Ischemic optic neuropathy (ION)とは

(清澤のコメント:この記事は今日の治療指針2012(医学書院)p1236-7に公表した自著記事を再編集したものです。)

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病態と診断:虚血性視神経症 Ischemic optic neuropathy (ION)とは虚血性視神経症 Ischemic optic neuropathy (ION)清澤源弘 清澤眼科医院院長(東京)・東京医科歯科大学眼科臨床教授

病態と診断:

虚血性視神経症は、視神経での血液の循環が障害される虚血や、その血管が詰まる梗塞によって、視覚障害をきたす疾患です。(1)前部虚血性視神経症には、①非動脈炎型と、②動脈炎型の2型があります。これなら、眼底に見られる視神経の乳頭に蒼白浮腫の所見が見られます。これに対して(2)視神経乳頭に炎症所見がなくて蒼白化を呈する型を後部虚血性視神経症(posterior ischemic optic neuropathy:PION)とよんでいます。

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(1)の①;非動脈炎型前部虚血性視神経症は、動脈硬化を原因とした片眼性で痛みを伴わない視力の低下で発症しますが、同時に高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満などをの動脈硬化の危険因子を合併していることが多いです。

 

photo627また、視神経乳頭が小乳頭(これをcrowded disc:混み合った視神経乳頭の意味):と呼び、その様な視神経乳頭は危険を伴う視神経乳頭と呼ばれます(disc at riskはディスクの直径が小さく、その直径に対してカップが小さいです)。

 

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その場合の視野欠損は、水平性視野欠損(altitudinal defect水平線の上または下半分が見えなくなるもの)が典型的ですが、そうはならないで中心部に視野欠損を示す場合もあります。

前部虚血性視神経症はその発症後には、症状の改善もみられにくいですが、基本的には進行もしません(一部の症例では進行=悪化がみられることがあります)。

まれに、抗リン脂質抗体症候群や、ANCA関連血管炎を合併している場合がありますから、採血検査ではこれも忘れない様な注意を要します。

(1)の②:動脈炎型前部虚血性視神経症は、50歳以上の高齢者にみられる動脈炎を病態としたまれな疾患です。数日から数週以内にも反対側の眼に著しい視力低下をきたす可能性がありますから、迅速に診断と治療を行う必要があります。頭痛、赤沈の亢進(50mm/時以上)、jaw claudication(顎を使うと痛くなる、顎ががくがくすると表現されます。)などがあれば、他の視神経疾患を除外して置いてから外科などに依頼して頭皮を切開して索状に腫大した側頭動脈を探し、その生検を行い、診断を確定することが出来ます。この疾患なら、早々に大量のステロイドを使いますから、この確定診断は付けておきたいです。

動脈炎型前部虚血性視神経症はリウマチ性多発筋痛症(発熱、食欲不振、体重減少、両肩と大腿部などの近位筋の痛み、赤沈の亢進、CRP高値)を合併しやすいです。

(2)後部虚血性視神経症は、眼窩内視神経または視神経交叉など、前部視路に分布する血管に上で述べた前部虚血性視神経症と同様の病変が起こったものです。脳への放射線照射、脳外科手術、全身の血圧低下、透析、内頸動脈狭窄症、重度の貧血、膠原病、血管炎、凝固能亢進状態、感染症(眼部帯状ヘルペス、アスペルギルス症など)などでも生じます。

動脈炎型前部虚血性視神経症の治療は原疾患に対する治療、あるいは前部虚血性視神経症と同じ治療となります。残念ですが、一度出現した視覚障害の改善は難しいです。

治療方針

(1)の① 非動脈炎型虚血性視神経症

治療に関してはそれが正しいとする証拠(エビデンス)が乏しいのですが、動脈硬化の病態に対して、動脈硬化の促進因子のコントロール、抗血小板薬(バイアスピリン)を用いることが多いです。補助的に、ビタミンB⒓や、循環改善薬を使用することもあります。

処方例 下記を併用する
1)バイアスピリン錠(100mg)1錠 分1 朝食後
2)メチコバール錠(250μg)3錠 分3 毎食後、あるいは2錠 分2 朝・夕食後

(1)の②:動脈炎型虚血性視神経症

ステロイドパルス療法(3日程度を目途に極大量のステロイドを集中的に点滴で与える)を行い、以後は内服療法に切り替えてゆきます。プレドニゾロン内服用量は赤沈値を指標に、週に10mg/日もしくは、総量の10%程度ずつ減量してゆきます。一日量が10-15mgとなると、その用量をしばらく維持して減量には注意します。通常1年以内にステロイドは中止できることが多いでしょう。

処方例 下記を併用する。
(1)ソル・メドロール注 1回500mg 1日2回点滴静注 3日間、その後、プレドニン錠(5mg)6錠(朝食後4錠・昼食後2錠)より開始し、漸減
(2)ガスターD錠(10mg) 2錠 分2 朝・夕食後
(3)ムコスタ錠(100mg)3錠 分3 毎食後

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この記事は今日の治療指針2012に私清澤が担当して書いた医師向けの治療指針を、ご自身やご家族が此の疾病で有ると言う様な一般市民への説明用にアレンジし直して採録したものです。

https://www.kiyosawa.or.jp/uncategorized/40701.html/

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