眼科医清澤のコメント:すっかり寒くなりました。空は快晴ですが、医院の前の街路樹もこの寒さにこの数日でほとんど葉が落ちました。故郷の松本は銀世界だそうです。昨日からは、日本神経眼科学会がお茶の水ソラシティ―で開催されており、その総会では私にも名誉会員証をお贈り下さるそうです。本日の「みんなの眼科教室 教えて清澤先生」は、「失明する病気」にずっと本人が気が付かない理由は?というお題です。
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「失明する病気」にずっと本人が気が付かない理由は?
【Q】雑誌などでよく失明する話を目にしますが、信じられません。失明するくらい状態が悪ければ、目がかすむとか視力が落ちるなどして本人が気付くと思うのですが…(48歳・女性)
【A】当院の患者さんからも同じような質問を受けることがあります。今回は日本人が失明する病気を取り上げて、なぜ気付き難いのかをお話しします。
日本人の失明原因第1位は「緑内障」です。緑内障は、視野の周辺に見えない部分ができ、それがゆっくり広がっていく病気です。視野が欠けていることに気付かず、失明してしまうケースもあります。緑内障の視野欠損に気付き難い理由は3つあります。まず、片目に見えない部分があっても、反対側の目の見える部分で補ってしまうからです。片目で見れば、気が付くかもしれません。 次に、片目に視野欠損があっても、人間の脳にはその部分を周りの色調で補完する特性があるからです。芝生に禿げた部分があっても周りの緑で埋めてしまう感じです。最後は、ゆっくり周辺部の視野欠損が進んでも、緑内障では真ん中の部分の視野が侵されないと視力低下が起こらないためです。「小さい文字も読めるから大丈夫だろう」と眼科受診が遅れるケースが多くみられます。
コンタクトレンズを作りに来た患者さんを診て、視神経乳頭が緑内障の特徴を示していることから視野測定した結果、緑内障と診断するケースは少なくありません。自覚はないのに、会社の健康診断で視神経乳頭陥凹拡大との指摘を受けるのも同じことです。緑内障は、日本人の場合、40歳以上で5%程度、60歳以上では10%程度と多くの人に見られます。
「糖尿病網膜症」も失明の原因になります。この病気は最初の診断後5年間は視力低下などが起きにくいとされます。また、眼底に点状の出血があっても視力や視野の変化は表れにくいので、眼科の治療開始は遅れやすいといえます。網膜の浮腫が視力を支える黄斑部にかかって黄斑浮腫を来たせば、視力低下が起きて眼科医を訪れるきっかけとなります。中期までの治療は網膜光凝固治療を行います。糖尿病と診断されたら、定期的に受診して手遅れを防ぎたい病気です。
「網膜色素変性症」は、遺伝も関係して網膜に色素沈着を伴う萎縮が起き、視野の中心から30度あたりに輪状の暗点を生じさせる疾患です。進行すれば中心視野だけを残す視野となりますが、視力は最後まで残ります。この疾患の大事な特徴は、薄暗いところで特に見えないことです。家族にこの病気の人がいる場合、眼科を受診しておくことをお勧めします。
「加齢黄斑変性症」と強度近視に伴う「網脈絡膜萎縮症」は、ともに網膜の中心にある黄斑部に出血を来たして中心暗点を生じる疾患です。網膜の深い部分に新生血管と呼ばれる脆く切れやすい血管ができて出血を繰り返し、黄斑萎縮で視力低下を来たします。片目で見た像の中心が歪んで見えたら、すぐに受診してください。最近は眼球へ注射する新しい薬が使われています。
失明することのある眼疾患でも、その兆しはわずかなもの。見え方に異変を感じたら、早めの眼科受診をお勧めします。
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