清澤のコメント:生体内ビタミン E 輸送の決定因子 a-TTP の生理機能と先天性欠損症―日本薬学会賞受賞対象研究の一部として― というレビューが新井洋由(東京大学大学院薬学系研究科)教授によって記載されました。(2022年4月3日受付)、このレビューは、著者が日本薬学会から受けた賞の研究の一部をまとめたものです。研究の完全なタイトルは「The discovery, physiological functions, and congenital defects of a-tocopherol transfer protein (a-TTP), a critical factor in determining the
transport of vitamin E in the body」です。この総説では、健康を決定する重要な要因であるα-トコフェロール転送タンパク質(α-TTP)の発見、生理学的機能、および先天性欠損症について説明しています。体内でのビタミン E の輸送は、著者(新井洋由教授)の研究キャリアを通じて研究の焦点となっています。私清澤も当時医科歯科大の眼科医として多少かかわった部分があり、抄出して採録します。
ーーーーこの中の一節を採録ーーーーー
ビタミン E 欠乏症の家系のサンプルを持っているフランス,チュニジアの
グループとの共同研究を行い,その結果,地中海沿岸のビタミン E 欠乏症の家系において a-TTP 遺伝子にフレームシフト変異を見い出した.63) すなわち,それまで未解明であった AVED (先天性ビタミン E 単独欠乏症)の原因が aTTP 遺伝子の変異であることを初めて明らかにした.77) 一方,東京医科歯科大の横田らも,網膜変性を来す日本人患者の中で血中ビタミン E レベルが低下している患者を見い出していた.78) この患者はチュニジアの患者ほどビタミン E レベルは低下しておらず,また症状も軽度であった.後に,日本で唯一見つかっていたビタミン E 欠乏症患者の遺伝子を供与して頂くことができ,解析の結果,AVED患者では初めての a-TTP 遺伝子ミスセンス変異(101 番目の His 残基が Gln に置換;H101Q)であることが判明した.77)
われわれの報告を含めて現在までに 20 種類以上の変異が報告されている(Fig. 4).60) a-TTP 遺伝子は 5 つのエクソンを持つが,変異はすべてのエクソンにみられ,特に変異が集中した部位は存在しない.また,日本人患者以外にもいくつかミスセンス変異が見い出されている.最初の報告で見い出された変異(744delA,530AG→GTAAGT,513insTT)はいずれもフレームシフト変異のホモ接合体である.これらの患者では発症は 20 歳以下で,30 歳までに自力歩行不能となるなど症状は重く,血清ビタミン E 濃度も著しく低い(<1.0 mg/L).66) 一方,日本で見い出されたミスセンス変異(H101Q)の症例では,発症は 30~50 歳台と遅く症状や血中ビタミン E 濃度の低下も比較的軽度である(>1.0 mg/L).58,77) 患者剖検肝を調べるとミスセンス変異 aTTP(H101Q)のタンパク質レベルでの発現が確認され,また,H101Q リコンビナント aTTP は in vitro での a-Toc 輸送能を 10%ほど残存していた.すなわち,日本人 AVED 患者の軽度の症状とH101Qa-TTP の残存機能との相関が示唆された.
65:Yokota T., Shiojiri T., Gotoda T., Arita M., Arai H., Ohga T., Kanda T., Suzuki J., Imai T., Matsumoto H., Harino S., Kiyosawa M., Mizusawa H., Inoue K., Ann. Neurol., 41, 826-832 (1997).
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