猫ひっかき病による眼病変の診断と治療 高知大学医学部眼科学講座 福田憲
清澤のコメント:よく聞くことはあっても実際にそれと決まった例を自分で見たことはなかったのが猫ひっかき病。それを日本の眼科の「眼科医の手引き」でまとめて説明していた。著者は下の文献で15例をまとめている。
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- 猫ひっかき病とは
猫ひっかき病(Cat-scratch disease,CSD)とは, 猫や犬が保菌しているグラム陰性桿菌の Bartonella henselaeによる人畜共通感染症である。感染している猫との接触により,猫蚤を媒介して感染する。典型例は引っかかれた部位に丘疹や膿疹を生じ,所属リンパ節の有痛性の腫脹,発熱や倦怠感などの感冒様の症状を来すが,自然軽快することも多い。若年者に多く,秋から冬に発生率が増加し,温暖で降雨量の多い地域に多い。
診断は,血清抗体価による血清学的診断か, 病巣部やリンパ節などからPCR法で B. henselae DNAを検出して行う。本邦では血清抗体価の測定が保険適用でないめ,未診断例が多く存在すると思われる。
本邦では CSD は年間約1万人程度罹患し,1割程度が重症化して非典型的な症状を来す。非典型例で最も多いのが眼病変で,視神経網膜炎が約 5%, Parinaud 眼腺症候群が約2%発症すると推定されている。
- CSD による結膜炎 (Parinaud 眼腺症候群)
片側性の肉芽腫性結膜炎と同側のリンパ節炎を呈する臨床病型である Parinaud 眼腺症候群の最も多い原因が CSD による結膜炎である。片眼性の充血・異物感・眼脂などを主訴に受診し,濾胞性・肉 芽腫性結膜炎を呈する(図 1)。球結膜・瞼結膜の いずれにも生じ,中央部に壊死・潰瘍形成を来すことが多い。同側の所属リンパ節(耳前・顎下・頸部 など)が腫脹するが,ウイルス性結膜炎のリンパ節腫脹よりはるかに大きいのが特徴である。
- CSD による後眼部病変
CSD の後眼部病変は,視神経網膜炎と限局性網脈絡膜炎に分類される。視神経網膜炎は,視神経 乳頭腫脹および視神経周囲の漿液性網膜剝離・網膜浮腫が生じ,浮腫が軽減するとともに黄斑部に特徴的な星状斑(macular star)が生じる。CSDに伴う後眼部所見で最も頻度の高い所見が白色の網脈絡膜病変であり,網膜表層から脈絡膜まで様々な部位に生じる。視神経病変を伴わず白色の網脈絡膜病変のみがみられるものが限局性網脈絡膜炎で,黄斑に病変がなければ視力低下を伴わない。また若年者でも網膜血管閉塞を伴うことがある。
- CSD に伴う眼病変に対する治療
典型的なCSDは自然治癒傾向がある。CSDの眼病変に対して抗菌薬やステロイド内服の有効性など,エビデンスのある治療法は確立されていない。 筆者らは後眼部病変を伴ったCSDでは視機能の状態に応じて治療法を選択している。治療による視力予後は比較的良いが,暗点などの視野障害を残すことも多い。
- 終わりに
CSD に伴う眼病変は自然治癒傾向もあり,未診断例が一定数存在すると推定される。筆者の経験した 26 例では全員猫との接触歴があり,8 割以上の 症例に発熱・CRP 上昇がみられ,これらも参考となる所見である。
文献
Fukuda K, Mizobuchi T, Kishimoto T, et al. Clinical profile and visual outcome of intraocular inflammation associated with cat-scratch disease in Japanese patients. Jpn J Ophthalmol 2021; 65 : 506- 514.
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注:Parinaud 眼腺症候群; Parinaud眼腺症候群は,急性発症の片眼性の肉芽腫性結膜炎と同側のリンパ節炎を伴った臨床病型。
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