清澤のコメント:遺伝性の眼疾患に対する従来の研究は、主に遺伝子治療に焦点が当てられてきたが、今回の研究により、抗菌薬だけで、CRB1に関連する遺伝性眼疾患の悪化を防ぐことができる可能性が示唆されたという点が新しい。ネット記事にもなっているが、原著は信頼できる雑誌に出ている。
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ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの眼科医であるリチャード・リー氏らの研究チームが、特定の遺伝性眼疾患による視力の低下は、腸内細菌によって引き起こされる可能性があることを突き止めた。
研究チームはマウスを用いた実験を行い、これまで脳と網膜色素上皮にのみ存在すると見られていたCRB1遺伝子によるタンパク質が、腸壁にも存在することを明らかにした。
CRB1タンパク質は、病原体や有害な細菌と戦い、体内の健康を維持するためのバリアを維持する上で重要な役割を果たす。一方でCRB1遺伝子に変異があると、CRB1遺伝子が十分に発現されず、保護のためのバリアが破れてしまう。
研究チームによると、意図的にCRB1遺伝子に変異を起こしたマウスでは、腸内細菌が破れたバリアを通過し、血流を通って網膜に入り、視力を低下させるような病変を引き起こした。これらの細菌に対し、抗生物質などの薬品を投与すると、それ以上のマウスの視力低下を防ぐことが可能であった。なお、抗生物質を投与しても損傷したバリアは回復しなかった。
遺伝性の眼疾患に対する従来の研究は、主に遺伝子治療に焦点が当てられてきたが、今回の研究により、抗菌薬だけで、CRB1に関連する遺伝性眼疾患の悪化を防ぐことができる可能性が示唆された。
原著:CRB1-associated retinal degeneration is dependent on bacterial translocation from the gut
Published: February 26, 2024 DOI:https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.01.040
Highlights
ハイライト
- •CRB1は網膜と結腸の両方の上皮バリアの完全性に重要です
- •Crb1変異により腸から眼への細菌の移動が可能になる
- •Crb1関連の網膜変性はこの細菌の転座に依存しています
- •無菌状態と抗生物質がCrb1関連網膜変性を救う
まとめ
クラムズホモログ 1 ( CRB1 ) 遺伝子は、網膜変性、最も一般的にはレーベル先天性黒内障 (LCA) および網膜色素変性症 (RP) に関連しています。ここで我々は、 Crb1の Rd8 変異を持つマウス網膜が病変内細菌の存在によって特徴付けられることを実証します。正常な CRB1 発現は網膜色素上皮および結腸腸細胞の頂端結合複合体で豊富でしたが、Crb1変異により両方の部位での発現が低下しました。Rd8 マウスにおける外側血液網膜関門と結腸腸上皮関門の結果的な障害により、腸内細菌が下部消化管 (GI) 管から網膜へ移行し、二次的な網膜変性が引き起こされました。全身的な細菌の枯渇または正常なCrb1発現の再導入のいずれかにより、網膜バリアの破れを逆転させることなく、結腸的にRd8変異に関連する網膜変性が回復した。私たちのデータは、 Crb1変異に関連する網膜変性の病因を解明し、抗菌薬がこの壊滅的な失明疾患を治療する可能性があることを示唆しています。
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