神経眼科

[No.835] 「高齢者と複視」(日本の眼科)論説紹介

高齢者と複視という題目で、国立病院機構東京医療センター眼科視能訓練士小川佳子氏と 忍足眼科医院の忍足和浩先生が日本の眼科8号に(プチビジョンケア通信)を著している。興味を惹かれる内容なので概要を採録してみる。

  ―――短縮して採録―――

 「ものがぼやけて見える」と言って外来に来る高齢の患者さん。よく聞くと「両目で見ると二つに見える」ということを,「ぼやけて見える」と 表現しているよう。このぼやけが高齢者の複視のキーワードになっている感じ。

① 代償不全型先天性上斜筋麻痺  年齢が高くなるほど上斜筋麻痺が増加する傾向が報告されている。斜視角が小さくカバーテストでもよくわからないこともある。よく観察するとわずかなhead tilt を認めることもある。横になってテレビを見ている時や車の運転時など時々しか感じないため日常生活にさほど不便さがない。発症日ははっきりしない。  

② sagging eye syndrome:加齢による変化で、外直筋-上直筋バンドの菲薄化により,外直筋プリー(滑車)が下垂して生じる微小な内斜視や上下回旋斜視,あるいは両者の合併。複視の発症日が明確でないことが特徴。  

③ 眼軸長が長い高度近視眼:筋紡錘から眼球後方が外側に虚脱し,見た目内下斜視になっている。眼球運動障害も伴っているため固定斜視になっていることが多い。治療としては外直筋と上直筋の筋腹を縫合する手術がある。症状が軽度ならプリズム眼鏡を試す。回旋性複視でプリズム眼鏡での改善が難しいとされるが,水平・垂直の2成分プリズムで緩和できればよい。最初は正面視で慣れてもらうことを話しておく。

複視は時に不定愁訴の顔をしている。乱視のせい,歳のせいと思っている患者のつぶやきを聞き逃さないように。

  ―――――

清澤のコメント:私は②と③は連続的なものかもしれないと思っています。③に対して若倉先生は眼窩窮屈症候群というチャーミングな名前を付けています。「サギングアイ(たるみ症候群)」という病名が知られるようになって、私の新しい診療所にもそれではないか?と訪ねてきた患者さんが続いたことがありました。②あるいは③か?と思って、それを扱える複数の先生に紹介してみましたが、それとして手術をする対象にはならぬという事で戻されました。以前の診療所で、先輩の石川弘先生に中高年の両眼性複視患者を相談すると、先天性上斜筋麻痺に限らず、融像の破綻した普通の斜視という診断に落ち着く例は多かった印象でした。

Sagging Eye Syndrome:たるみ目症候群の原著紹介

眼球周囲結合組織のたるみから起きる目の病気:「サギングアイ症候群」「たるみ目症候群」、60歳からの健康術 眼科編(11)

 

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